固定資産税の導入を考えている中国政府: 呂 新一
今、中国の幾つかの地方で、固定資産税の導入を計画しています。そして、5月31日、国務院(日本での内閣府に相当)は発展改革委員会(経済産業省に相当)が提出した《2010年 経済体制改革重点項目についての考案》を承認しました。その《考案》は固定資産税を徐々に導入することを明確に打ち出しました。
また、報道によると、上海市は、1人当たり居住面積が70平米を超えた家庭から、そして、居住面積の大小を問わず上海に戸籍を持っていないか又は上海市の居住許可証を取得した期間が1年以内の家庭から、固定資産税を徴収することを計画しています。
ただ、このまま固定資産税を導入すると、深刻な社会問題を起こす可能性は十分にあります。まず、以下のような問題点が挙がられます。
1) 多くの国民が固定資産税に抵抗を感じる可能性があります。というのは、中国では、住宅を購入したと言っても、本当に購入したのは今後70年間の居住権だけであり、土地はあくまで政府の持ちモノです。そして、70年間の居住権を購入したとしても、いつか、政府の役人が突然やってきて、今の住まいが何かの開発計画区域に含まれ、1ヵ月以内に引っ越してくれと言われれば、引っ越さざるを得ません。そのような、土地を所有出来ず、いつ政府によって壊されるのかも分からない
“固定資産”に税金を払うことは国民が抵抗を感じると思われます。
2) 固定資産税は建物の評価額をもとに徴収されるが、その評価額を誰が決めるのかは大きな問題です。今、中国に大金持ちがぞろりいることは半ば常識になっていますが、その大金持ちのうち、かなりの人は会計事務所、地方政府と組んで国有資産をタダ同然で手に入れたことで初めて富豪になった人です。そのような過去があるだけで、今後、建物の評価額を決める際、高級住宅地などが意図的に低めに抑えられることは十分に考えられ、そして、そのことで、社会不満が高まる恐れはあります。
3) 課税の基準を一人当たり平均住居面積が70平米以上にしたことで、都会で狭いマンションに住んでいる殆どの住民は固定資産税を払う必要はないが、広い住居に住んでいる金持ちと土地の値段が安い田舎(上海市という行政区範囲に入る田舎)に住んでいる人達が税金を払うことになります。金持ちは何とか税金を払えるかもしれないが、田舎の百姓に固定資産税を払えと言うのはちょうど現実的に難しい上、都市部のサラリーマンとの間のバランスは取れていません。
4) 中国では、お家を持っている人達は必ずしも自分たちで買ったわけではありません。今から20数年ほど前、住宅制度改革をスタートした当時は、それまでに政府機関・国営企業が保有していた宿舎を非常に安い値段で長年勤続しそこに住んでいた職員達に売却、ないし贈与しました。中国で農民を除けば初めて持家を保有した人達はこのように政府機関・国営企業の従業員でした。今となっては、この人達は既にお年寄りになり、又は配偶者が居なくなり、一人で住んでいる場合は少なくありません。こういう人達に今から固定資産税を払えと言っても、現金収入がないことも多いでしょう。
5) 居住面積の大小を問わず上海に戸籍を持っていないか又は上海市の居住許可証を取得した期間が1年以内の家庭からから固定資産税を徴収することは、上海市民の排外意識を刺激すると同時に、“外来民”の生活を一層圧迫する恐れがあります。
6) 固定資産税は地方税に属される税種で、地方政府に税率および徴収方法を決める権限があります(ただ、中央政府に報告し承認を待つ必要があります)。地方が権限を持っているとすれば、今まで土地の値段を高くし、巨額の富を得たと同じように、今後、固定資産税を便利な“増収手段”として悪用する恐れがあります。
こうして見ると、中国(に限らず)で、透明性と公正性が保証されない限り、おカネに係わる重要な政策を導入することで、新たな社会不満を作り出す可能性があります。
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