中国事情

2009年12月 9日 (水)

中国―GDPの8%確保と病んでいる住宅市場: 呂 新一

月曜日に閉幕した中央経済工作会議が、2010年も「積極的な」財政政策と「適度に緩和的」な金融政策を継続することは日本でも大きく報道されました。

 

一方、多くの中国国民は、住宅購入支援措置が継続されるかどうかに強い関心を持っていました(蓋を開けてみると、「戸籍を持っている者の住居ニーズと住居環境改善ニーズをサポートする」と明記され、支援措置の継続がほぼ確実のようです)。

 

というのは、今の中国で、住宅価格の高騰が民衆にとって深刻な問題になっています。

 

中国社会科学院が7日に発表した青本は、今の住宅価格では、85%の世帯が全く買えないと結論付けました。青本が用いた基準は年収の36倍以内ということですが、今の中国では、住宅価格は都市部住民年収の8.3倍に、都市部に来ている出稼ぎ農民に至っては、年収の22倍にもなっています。

 

中国では、住宅について固定資産税がないうえ、遺産相続税も徴収されず、カネ持ちにとってはインフレヘッジ、投機または資産を子供に移転するための格好の道具と化けています。そして、今年になってから、景気刺激のための資金が大量に住宅市場に流れ込んだことも住宅価格の高騰に拍車をかけました。

 

高い住宅価格が社会問題化しつつあります。昨日(128日)、上海市の地下鉄電車の中、一人の青年がテントを張り、「持家はないがそれでも恋人を募集している」と印字しているTシャツを着て、周囲に住宅難をアピールしました。

 

Photo

 

住宅価格がここまで高くなると、中央経済工作会議がいくら現代化・都市化の一環として、出稼ぎ農民の都市部への定着を訴えても、出稼ぎ農民は住宅を買えず、結局都市部に定住することはできません。

 

また、今年になってから、地方政府が建設用土地を取得するため民間の住宅を強制取り壊しにかかり、それに抵抗する持ち主が焼身自殺を図る悲惨なケースは、内モンゴルの赤峰市、四川省の成都市、そして山東省の青岛市で少なくとも3件発生しました。特に成都市のケースは、47才の女性が焼身自殺(下の写真)で亡くなった後、地元政府によって“暴力で公務執行妨害”と言い渡され、ネット上で白熱した議論を巻き起こしました。

                                 Photo_2

 

このように、中国人にとって、高嶺の花となった住宅をどう取得するのか、そして取得したとしても本当に自分のものになったのか、悩みのタネが尽きません。

 

無論、中央政府はこのような現状を知っていると思われます。ただ、社会安定を図るため、雇用を創出するため、8%以上のGDP成長はどうしても達成しなければならない。その8%の成長に住宅産業は不可欠であり、中央政府としても下手にいじることはできません。

 

事実、筆者が先々週中国へ一時帰省した際、故郷の大通りの両側に沢山の店が並んでいることを発見しました。2年前ではそれほどなかった筈です。そこで、よく見てみると、大半の店が住宅ブームの申し子であることが分かりました。というのは、建築用鉄筋・角材、水道パイプ・ガラス、タイル・塗料、大工道具・木材販売など、建築関連の専門店は非常に多く、日本では全く見られない風景です。このことは、今の中国で、住宅建築ブームがいかに景気を支え、雇用に貢献しているのかを如実に表しています。

 

それにしても、中国は、今、国民の生活安定に深くかかわっている住宅価格の安定を優先するのか、それとも高いGDP成長率を優先するのか、厳しい選択を迫られているように思われます。

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2009年12月 2日 (水)

日銀による追加金融緩和策、中国人民元: 呂 新一

昨日午後、日銀は臨時の金融政策決定会合を開き、年率0.1%の固定金利で10兆円規模の資金を金融市場に供給することを決めました。

 

追加緩和策の効果をみると、まず、これで資金が最もそれを必要とする企業に届くかどうかは定かな保証がなく、ルートの問題を解決しないと、資金が単に金融機関の中で死蔵金になる恐れは高い。この点においては日銀が批判を受ける可能性があります。

 

ただ、金融機関が年率0.1%で安定的に資金調達できる見通しが立つと、市場金利が低位安定し、その結果、日米金利差に基づく円高見通しがかすみ、円高阻止する効果が期待できます。特に円のロングポジションが膨大なものになっている現在その効果はあると思われます。

 

今回の決定についてもう1つ言えることは、タイミングが良かったことです。日本株に弱気ムードが充満し、ここにきてドバイ・ショックも重なり、在日外銀を含め銀行の資金繰り、資産の毀損が懸念されている最中、日銀による追加の金融緩和策は株式市場の弱気ムード払拭し、銀行を纏わる不安の解消に非常に役立つと思われます。

 

ただ、今回の追加緩和策だけで円高圧力がなくなり、これから円安に向かうとはとても言えません。円がドルに対し本格的に安くなっていくには次の2つの条件のうち、少なくとも1つが満たされることは必要でしょう。

 

1) FRBが利上げに動くこと。その可能性はないわけではありません。ゼロ金利によるドル安が米国経済を支えているが、長期に亘りドル安が続くと、コモディティ価格の上昇が止まらなくなります。それがいずれ米国経済に好ましくない影響をもたらします。そうなると、FRBまたは米政府がドル防衛に回ると予想されます。

2) 中国が再び人民元の緩やかな上昇を認めること。米国は中国に対し対米貿易黒字を稼ぎ過ぎと怒っていますが、よく見ると、中国の対米貿易黒字のうち、現地生産している日系企業、あるいは、日本産の部品を使っている韓国系、台湾系の企業によるものは少なくありません。言い換えれば、日本の企業は、中国を使って米国に迂回して輸出しています。その迂回輸出に韓国系企業、台湾系企業も協力しています。このことは、アメリカから見ると、日本 中国 アメリカ、というアメリカへの商品流入ルートを円高、又は人民元高のどちらかでブロックすれば良いわけで、そのため、人民元が高くなれば、円高への圧力が弱まる可能性はあります。

 

 では、中国政府が人民元高を容認しますか、その可能性はあります。今のところ、中国政府が人民元の安定を強調していますが、水面下でのインフレ圧力が表面化すれば、中国政府が姿勢転換する可能性は十分にあります。

 

今から約2カ月前、中国はガソリン価格を2割ほど値上げしました。過去数年間、中国政府が断続的にガソリンを値上げして来ましたが、そのつど補助金を出していました。しかし、今回は補助金なしで、ガソリン価格上昇がユーザーを直撃しています。例えば、上海市では、1011日より、タクシーの初乗り料金(最初の3キロまで)が11元から12元に、初乗り距離超過後の1キロ当たりの加算料金も2.1元から2.4元に引き上げられました。

 

補助金なしでガソリン価格を上げると、殆どすべての物価が上がります。今の中国はもう過去の農業国と違い、(効率の悪い)工業化が急速に進んだため、燃料価格の上昇は隅々の物価まで影響します。

 

ドルが安定している時、人民元がドル連動しても物価にそれほど影響しないが、ドルがとんとん下がっていき、年率8%の成長が続き、海外の原料・エネルギーへの依存度がますます高まってきた現在、通貨のドルペッグ維持が輸入インフレを招く可能性が高い。

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2009年11月25日 (水)

中国のGDPは統計で測れない訳: 呂 新一

先週金曜日から今週月曜日の4日間、親戚の結婚式のため中国に一時帰国しました。親戚の結婚式は上海のホテルで盛大に挙げられたが、結婚式の後、老いた母がいる泰興市に行き、その泰興市から上海に戻るため、乗っていた長距離バスで経験したことは中国の経済統計が当てにならないことを教えてくれました。

 

泰興市から上海に戻るのは日曜日の午後でした。泰興市では上海で仕事をしているまたは学生生活を送っている地元出身者が多いため、日曜日午後のバスでは混雑すると予想していました。ところでバスに乗って見ると、それほど混んでおらず、大型バスに40人ほどが乗っていて席にかなりの余裕がありました。

 

しかし、バスが大きくて立派に作られた駅を出た後、日本ではあまり経験できないことが起こりました。というのは、駅を出てから僅か50メートルの所で3人が切符なしで乗車してきました。そして、そのさらに50メートル先、70メート先、60メートル先、或いは100メートル先、…などなど、数えてみると、それほど大きくない泰興市の町の中で17回も臨時停車し、23人前後が切符なしで乗車して来ました。そのため、バスの中が非常に窮屈になり、高速道路に乗る長距離バスというより、前と後ろにある2つのドアが開けられないほど乗客が立っていて、通勤バスのようになりました。

 

駅から発車したのは午後4時半でしたが、あちこちで乗客を拾っていたため、高速道路に入る際はもう周囲がすでに暗闇になりました。そして、高速道路に入ると、今度、運転手の知り合いである女性が駅の外で乗車した人達からおカネを集め始めました。無論、切符を販売しているわけではなく、単に会社のバスを利用して運転手と共同事業をしているだけです。そこで良く見ると、私が駅で買った正規の切符は70人民元(日本円で約千50円)でしたが、皆さんがその女性に渡したのは一人当たり50元でした。なるほど、皆が駅の外でバスを待っていた訳が分かりました。

 

高速道路を使えば泰興市から上海市まで約2時間半の距離ですが、揚子江に掛っている大橋を通らなければなりません。今回の旅で初めてわかったのですが、大橋のふもとには定員オーバーになっているかどうかをチェックするポイントが設けられています。このような時は連携プレイと携帯電話の威力を発揮する場です。何と、そのポイントの手前でバスが止まり、定員オーバーとなった乗客を呼びつけてきた小型バスに分流にしたのではないか、そして、チェックポイントを過ぎてから安全とみられる所で、小型バスが追いついてきて、先ほど分流された乗客が再び私たちのバスに乗ってきました。

 

そして、今度いよいよ上海市に入りますが、その手前で、泰興市でしたことと同じように、バスが平気で高速道路の脇に止まり、切符なしで乗ってきた何人かは降りて行き、暗闇の中に消えていきました。

 

このバスの旅で経験したことは、中国のGDP統計がいかに信用できないかを教えてくれました。というのはどうなに真面目にデータを記録し統計を取っても、そのバスの運転手さんと彼の相棒の正確な収入が分かりません。そして、その日に23人前後を泰興市から上海に運んだ経済活動も記録に残りません。

 

その意味では、中国のGDP統計を真面目に信用せず、参考程度にほどほどにした方が良いと思います。

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2009年11月18日 (水)

安い人民元で米国の内需が中国の外需に: 呂 新一

先週の本欄において、我々は、いま氾濫しているチープマネーと資産価格との関係について、アメリカではチープマネー(ドル安)が株価、商品価格を押し上げ、1つのバブルを作り出している可能性、そして、中国ではチープマネーが不動産バブルを演出し、このままいけば、不動産価格の大規模な調整と銀行の不良債権急増が避けられないことを述べました。

 

この米中両国でチープマネーが氾濫していることは、両国政府が意図して作り出した現象であり、両方とも時間稼ぎのためと見られます。

 

米国政府は昨年巨額の国債を発行し、それをFRBに換金してもらって得た資金で金融機関から不良資産を買い取り、何とか金融危機を凌ぎまして、今は、FHA ( Federal Housing Administration)を通じて住宅市場に洪水のようなローン資金を投入すると減税措置により、何とか住宅価格の大幅続落を防いでいます(数年前では、全体の住宅ローンに占めるFHAローンの比率が5%前後でしたが、今では20%前後占めるようになりました)。

 

FRBによる低金利政策も含め、米国政府は大量のチープマネーを供給することで、金融システムと国内消費を維持しています。その目的は何とか時間稼ぎをして、新しい経済構造が出来上がるまで繋げていくことと思われます。

 

無論、米政府のそのやり方の必然的な結果として、ドル安が止まらなくなります。ただ、今のところ、ドル安は米国にとってまだ深刻な脅威になりません。というのは、バブル崩壊によって生産能力が過剰になり、そして住宅価格も大幅に下落したため、潜在的なデフレ圧力が強いと見られます。そのような状況下でのドル安は米国政府にとって脅威ではなく、むしろ、この不況期で海外商品の流入を防ぐ効果があると見られます。

 

そのような状況下で、中国政府が未だに維持している人民元のドルペッグ政策は米国にとって頭痛のタネとなります。ドルは殆どの主要通貨に対し安くなりましたが、唯一中国人民元に対して安くなっていません。そして、中国が世界の生産工場と言われているだけに、安い中国製品が今でもとんとん米国内に流れ込んでいます。言い換えれば、人民元がドルペッグしている結果、米国が全力を尽くし折角維持している内需が国内に止まらず、中国の外需に化けています。

 

一方、中国政府から見ると、米国自身が今回の金融危機を招き、中国にとってはありがたい迷惑です。いずれ、自国経済発展の柱を内需にシフトしなければならないことは分かっていますが、国民に安心して消費できるためにやらなければならないことが山ほどあり、そう簡単にいきません。そこで、最も現実的な方法は、取りあえずチープマネーをとんとん発行し公共投資を増やして仮の内需で輸出減を補い、そのうちにアメリカの景気が持ち直せば再び対米輸出を増やすことと思われます。無論、この戦略がうまくいくには人民元の米ドルペッグを維持しなければなりません。

 

というのは、日本と違って、中国製品がアメリカで売れるのはブランド力というよりは単に値段の安さです。中国政府もその点がよく分かっているため、人民元の米ドルペッグ制を変更できずにいます。

 

無論、より長期的な観点から見れば、世界の最大な債務国である米国が自国通貨の長期下落をそのまま放置すると、いずれ、資源・エネルギー価格の暴騰が起こり、又は海外資本が離反するなど、ツケを払うことになります。また、中国がいたずらに人民元の切り上げを先送りすると、将来の経済構造転換(産業構造の高度化、内需に軸足をシフトするなど)がさらに難しくなると思われます。

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2009年11月11日 (水)

米中両国のチープマネーの後: 呂 新一

7日にスコットランドのセントアンドルーズで開催されたG20で、関係各国が景気刺激策を維持していくことを合意したと伝えられた。

 

このような結論になるのはある程度予想されたものです。というのは、今の世界経済の2大主力であるアメリカと中国を見ると、アメリカは、つい先日発表された10月の失業率が10.2%という26年半ぶりの高水準まで上昇しまして、景気刺激策からの脱却を議論できる状況にありません。一方の中国は、8月に緩和的な金融政策からの脱却を試みたが、株価急落という市場の反撃を受け、その後、景気刺激策の維持が不動のものとなりました。

 

無論、この世界には、イスラエル銀行が8月24日政策金利を0.25%引き上げ、オーストラリア準備銀行が10月7日、そして11月3日連続2回で政策金利を合計して0.50%引き上げ、ノルウェー中央銀行が10 29 日政策金利を0.25%引き上げたなど、景気刺激策からの脱却を進む動きもありますが、大きな流れにはまだなっていません。

 

現行のアメリカの超低金利が長期化する見通しがより鮮明になったことで、投資家はさらに安心してドルを売ることができ、その証として、昨日、ドルインデックスは一時、08年8月以来の低い水準まで落ちました(下記チャート参照)。また、今までのパターンからみると、ドル安(チープマネー)が株価を押し上げ、商品市場などを含め、1つのバブルを作り出す可能性があります。

 

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ただ、世界の基軸通貨であるドルが周りに何の悪影響も与えず長期下落していくことは考えにくく、仮にその途中で何らかの混乱が起こっていれば、既に実体経済の回復を遥かに先行している株価が大きく躓くことは十分に考えられます。また、逆に何らかの理由でドルが下落傾向から回復するトレンドに転じる際も、米株価は大幅調整する可能性があります。

 

他方、最近の米国の対中経済戦略を見ると、自国の苦境を反映しているためか、ムチの方は多くなったと思われます。今のオバマ氏が、トウ小平氏の弟子にでもなったように、「白猫であれ、黒猫であれ、ネズミを取っていれば良い猫である」の教えに従い、自国市場を守るために自由貿易の原則を捨て、無闇に色んな中国製品に高額の反ダンピング関税を課すことにしました。さらに、中国に対しては、人民元の切り上げも求める計画であると伝えられています。

 

こうして見ると、今の米中間の貿易摩擦が前世紀80年代後半の日米貿易摩擦に共通点があります。当時の日本は、結局、円高の圧力下で内需に活路を求めることになり、不動産バブルを引き起こしてしまいました。そして、今の中国は、輸出主導の経済構造を是正する目的と8%の成長を確保するとの大義名分下で不動産バブルを作り出し、それを膨らませています。

 

中国の不動産バブルの進行状況を示す1つの例として、浙江省瑞安県のケースを見てみます。瑞安県の中心都市である瑞安市は未だに映画館が1つもない地味な町ですが、ここにきて不動産投資(投機)熱が頓に高まってきました。まず、500メートルにもならない東の大通りに今年になってから70件前後の不動産仲介業者が現れ、その多くが客引きするために、毎日、無料のランチを提供しています。そして、地元にある銀行支店は預金総額の90%にも相当する大金を不動産融資に回し、今、不動産投資に充てられた資金が日本円で4,500億円を超えたと言われています。さらに、田舎のおばさん達も不動産投機に手を出し、全員参加型で誰もが住宅価格が上昇することこそあれ、下落することがあり得ないと考えて投機に走った結果、新築マンションはスケルトン(内装する前)のままで、廊下、エレベーターホールなども計算に入れて、平均して1平方メートルが2-3万元(日本円で約30-40万円)の高値となっています。

 

無論、このような不動産バブルが長期に亘って持続することは考えられません。チープマネーが不動産バブルを演出していますが、そのチープマネーの勢いが少しでも衰えると、中国不動産市場の大規模な調整、そして銀行の不良債権の急増が避けられません。

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2009年11月 4日 (水)

景気はまだまだ大丈夫とは言えません: 呂 新一

先週の本欄において、筆者は「目先の楽観を通り越して」とのタイトルで、中国、そしてアメリカの国内消費の先行きがあまり楽観できない理由を説明しました。その後、アメリカの10月消費者信頼感指数が47.7と、9月の53.4から大幅に低下したと発表されました。筆者の憂慮が的中しました。

 

消費者が元気になれない最大の理由はやはり雇用情勢が一向に改善しないことにあると思われます。事実、コンファレンス・ボードが行った調査によれば、雇用について「就職困難」との回答が9月の47.0から49.6に上昇しました。企業は売上が増えない現在の状況下で収益を拡大しようとすれば、おのずと人件費削減に走り、その結果、雇用の拡大は暫く絶望的と思われます。

 

さらに悪いことに、近いうち、政府による公務員削減の動きが顕在化し、雇用情勢が一層悪化する可能性はあります。というのは、今のところ、カリフォルニア州を始め、多くの地方政府はワークシェアリングあるいは強制無給休暇を増やすとの方法で支出を削減していますが、そのうち、税収の落ち込みによりさらなるコストダウンを迫られると、大規模な人員削減に踏み切る恐れがあります。アメリカの国家・地方公務員の合計人数が製造業の1.8倍にも達しているだけに、その職の安全性は消費、社会安定、そしてアメリカ経済にとって非常に重要であることは言うまでもありません。

 

民間消費の回復が期待できないだけに、政府による刺激策が引き続き大事ということになります。それが、米上院民主党が8000ドルの初回住宅購入者向け税控除措置の延長を合意した背景と思われます。言い換えれば、今までのところ、景気回復が依然非常に脆弱です。

 

景気回復が脆弱であるにも関わらず、3月上旬から今までの間、米株は上昇基調を維持してきました。その理由は景気がある程度回復しているほか、金融機関を救うために政府・FRBが金融システムに投入した大量の資金が実体経済に向かう代わりに、株・国債・商品先物などに流入した可能性が考えられます。金融機関が融資姿勢を厳しくした結果、Wall Streetが株高に喜び、Main Street(企業、一般大衆)が借金難に陥っている構図が鮮明になっています。

 

ただ、言われている景気回復が意外に脆弱であることが判明したため、米株式相場が今年3月以来の最大の試練を迎えています。下記チャートは恐怖指数との別名を持つVIX指数の推移で、3月上旬以こう低下または低位安定を保ってきましたが、ここ2週間急騰を見せています。このことは、言うまでもなく、株式市場が3月以来の大波に晒されていることを示しています。

 

Vix

 

中国について言うと、PMIは改善しているが、それよりも熱くて手付けられないほどになっているのが不動産市場です。今日伝えられたニュースによると、過去7カ月で、深圳市の新築住宅の平均価格が97%上昇しました。また、上海では、国有企業が一等地で高級住宅の販売に乗り出し、その中で最も豪華なものは15億日本円になると言われています。

 

中国の不動産価格急騰が中央政府の日本円にして57兆円にものぼる景気刺激策に支えられています。今の中国では、各大都市の至る所で、国有企業による土地の高値買収が盛んに行われています。眼玉が出るほど高い値段で土地を買収する目的はただ1つで、さらに高い値段で売ることです。景気刺激・銀行の融資加速 ⇒ 資金が国有企業へ流入 ⇒ 土地転がし・不動産価格急騰この構図は今のところ中国経済を支えているように見えるが、もはやソフトランディングできる段階を通り越したと思われ、本来は憂慮すべき事態ですが、止める力は見当たりません。

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2009年10月28日 (水)

目先の楽観を通り越して: 呂 新一

景気に持ち直しの兆しが出てきたことから、ドイツ、フランスなどは総合対策からの出口戦略を考えているようです。そして、ここにきて、米国も利上げが早まるとの観測で国債が売られています。

 

しかし、実体は多分これからずっと楽観していられるほど好転していない可能性が大きい。

 

今回の世界的な金融危機の後、一足先に出口戦略を考えて実行しようとしていたのは中国政府でした。先々月5日、中国の中央銀行である人民銀行が現行の金融緩和策を微調整する可能性を仄めかしたことをきっかけに、中国株が3日間連続売られました。それを見て、中国政府・人民銀行は慌てて現行の金融緩和・積極財政路線の堅持を宣言しました。

 

確かにGDP成長率だけを見ると、中国経済は順調すぎると言えるほど回復しています。事実、第1四半期のGDP成長率が6.1%、第2四半期が7.9%、第3四半期が8.9%で、回復するぶりは驚異的です。そして、多くの大型プロジェクトがいま進行中であることを考えれば、第4四半期のGDP成長率はさらに高くなると予想されます。ただ、一方、株価が景気を先行するとの観点からみると、矛盾するところもあると感じられます。というのは、中国上海総合株価指数が8月初めに3,478ポイントの高値を付けてからは、未だにその高値を抜けずにいます(下記チャート参照)。即ち、株式市場はまだ景気の先行きに不安を感じているようです。

 

Shanghai_composit_6m

 

株式市場が抱いているその不安はそれなりの理由があります。というのは、現在の景気回復は主に政府主導の社会固定資本投資によって引っ張られたもので、民間・消費主導とは言えません。GDPの内訳をみると、投資と輸出が75%も占め、消費は35%しかありません。また、そうなった理由を見ると、これまでの3四半期において、政府によるインフレ建設投資が前年同期比52%も増え、特に鉄道建設投資は87%も増えました。言い換えれば、中国の景気回復は政府が作り出した回復で、自律的、持続可能な回復とは程遠い。

 

また、最近、政府が発表したGDPと違う風景を見せている調査結果が発表されています。その二、三を見てみましょう。

 

・北京市では、昨年夏の大卒(中国では夏に卒業する)の半年後就職率は88%で、一昨年の93%より5%低下しました。そして、卒業した半年後の平均月給は2,746元(日本円で約3万円)で、一昨年の3,080元より8.9%(!)も少ない。

 

10大都市で3,295人を対象にした調査結果によれば、20081年で、収入が全く増えなかった家庭は全体の79.6%も占め、そのうちの27%は収入が減りました。そして、今年前半の5カ月で収入が全く増えなかった家庭は全体の85.4%まで上昇し、そのうちの31%は収入が減りました。言い換えれば、中国経済が7%前後の成長をしている間に、8割超の都市住民は収入が全く増えず、3割弱の都市住民がより貧乏になりました。

 

このような状態では、民間消費の盛り上がりはあまり期待できません。

 

中国はこの状況ですが、米国を見てもそれほど状況は変わらないと思われます。決算発表で米企業の収益回復ぶりが目覚ましいが、その最大な原動力が給与削減などのリストラであることを考えると、米国の消費回復もまだまだ先であると思わざるを得ません。

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2009年9月30日 (水)

中国の国慶節 と 株式相場: 呂 新一

今日は米国の株式マーケットについて書こうと思っていましたが、中国の国慶節(10月1日、明後日)が近づいているため、それについての報道が多くなり、触発され、やはり国慶節について書くことにしました。

 

というのは、今日、中国の各ネットニュースサイトが共に、国慶節当日に予定されたパレートに、名門理工系大学の清華大学の学生達が、「毛沢東思想万歳!」との巨大な看板を掲げてデモ行進することを報道しました。

 

下記の写真はそのリハーサル様子を映っています。

 

Photo

 

毛沢東思想は非常に豊富で多岐に渡り一言二言でサマリーすることはできないが、晩年の毛沢東氏はますます「階級闘争」の重要性を強調するようになり、「階級闘争」という概念は間違いなく毛沢東思想の中心であると言えます。

 

筆者が小学生の時、共産党中央が毛沢東の最新指示を全国民に伝える際、必ずすべての学級が授業を中断し、全員が大講堂に集められ、1時間にしよ、2時間にして、ラジオから毛沢東の言葉が伝えられるまでじっと待つということになっていました。伝えられた毛沢東氏の最新指示は往々にして、一言か二言のようなものでした。

 

その一言か二言かの最高・最新指示(当時はそう形容されていました)のうち、筆者がどうしても理解できず、そのためか今も鮮明に覚えているのは、次の2つです。

 

「八億の人がいれば、階級闘争をしなければならないのではないか」

「階級闘争をしっかりやれば、(経済建設など)すべてがうまくいく」

 

毛沢東の指導下で、中国全国で階級闘争の渦が巻いていました。すべての中国人が成人であれば、14種類に分けられ、そのうち9種類が人民(イコール正義)側、あとの5種類が売国賊、邪魔者或いはゴミカスとされる敵(悪)側とされていました。一旦敵側の”人間”にされると、もう、一生、人間として扱われることはありません。

 

新中国が建国当初、田舎で階級(敵と味方)を分ける際、金持ちであれば敵ということでした。そして、余りにも貧乏な村で金持ちがいないと、一人当たりの土地面積を計算して、多い家族が自動的に敵になります。そこで、このようなこともありました。ある家で御爺さんが病気でなくなった際、持っていた土地を二人の息子に均等に分けましたが、長男に6人の子供がいて、次男に子供がいませんでした。そこで間もなく共産党がやってきて、一人当たりの土地面積を計算した結果、自動的に、長男一家が味方にされ、次男夫婦が敵で制裁を受ける対象にされました。

 

毛沢東が晩年になった際は、建国からも二十数年が経ち、革命当初”敵”というレッテルが貼られた人は死亡で数が少なくなりました。そこで、田舎では毛沢東氏の階級闘争の思想を実践するため、敵の子孫を敵と定義しました。無論、その新しい敵は全員建国後に生まれ新中国で教育を受けた人達です。筆者が10代の時に2年半ほど過ごした村では、ある日、お父さんが革命前でちょうどした金持ちだった男が夜逃げしました。それが、借金返済できないための夜逃げではなく、革命の対象、階級闘争の対象に指定され、間もなく拘束される噂を聞いたための逃走でした。

 

毛沢東氏がなくなって33年が経った今年の国慶節に「毛沢東思想万歳」の看板が復活したが、思うにはその実践が非常に難しくなりました。というのは、革命当時の定義によれば、金持ちが革命・闘争の対象ですが、今の中国で超を付く金持ちの9割以上が高級幹部の子弟で、共産党が身内を闘争の対象にすることは考えられません。では、どうすれば良いのか、清華大学の学生達に聞いてみたくなりました。

 

今の中国では、ところにより地方政府も金持ちになりました。報道によれば、広州市番禹区が主な出資者で800万元(日本円で約1億600万円)を投じて造ったトイレ(!!)928日にマスコミに初公開され、そのトイレの壁に合計500gの金箔も貼られました。

 

下の2枚の写真はそれぞれ黄金トイレの外観と内部です。どうですか?

 

Outlookofthetoilet

 

Insidethetoelet

 

この黄金トイレのオーナーである番禹区政府が革命の対象になるかどうかは清華大学の学生達の判断に任せますが、筆者がここで強調したいのは、このような億ションならぬ億トイレが建設されたことが中国経済、或いは少なくとも中国の官僚たちの発想がバブル状態になっていることの症状です。そのようなバブル化している症状は探せば幾らでもありますが、問題はそのバブルがいつ崩壊するのか、又、中国国民にとってより重要なことは中国政府がどこまで現状を認識し、対応する政策手段を考えたのかです。

 

文書が長くなりました、最後に米国経済と株価について簡単に触れて置きます(詳しくは先週の本欄である「当局とマーケット」を参照にして頂きます)。

 

まず、景気は回復していないことを確認しましょう。先週末に開かれたG20では景気について前より大分楽観的になりましたが、しかし、決して景気は回復していません。というのは、住宅を失った人達は棲家を取り戻していないし、失業した人達は再就職できたわけでもなく、給料がカットされた人達が前の所得に戻っていません。悪くなったものが悪いままで、このような状態はとても“景気回復”とは言えません。

 

我々が中国経済を論じる際、輸出が依然不振であることを中国の景気回復が難しい理由の1つに挙げることに慣れているが、中国の輸出不振はそのまま先進諸国の消費がまだ戻っていない証明でもあります。

 

このような状況が続くようであれば、早かれ遅かれ、株価は2番底を付けに行くと思われます。

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