6かかし

2009年7月13日 (月)

株式市場調整後の姿を思い描く : かかし

 日米ともに株式市場の調整が続きます。先週は、ダウ平均株価が1.6%の下げにとどまったのに対して、日経平均株価は5.4%と大きく下落してしまいました。20090712

 株式市場の調整に歩調を合わせるように、最近3週間は「会社四季報を考える(その1)」「会社四季報を考える(その2)」「日米両国の株式市場の調整について考える」など「ひと休みモード」のテーマで書き進めてきました。

 

しかし、いつまでも調整というわけではないでしょう。

 そこで今日は株式市場の調整後の姿を思い描いておこうと思います。

 歴史的な経済混乱からの回復ですから、以前とまったく同じ姿に戻ると考えている人は少ないと思います。ではどういう姿になるのか? 明確なイメージを描いている人は多くないでしょう。

 その観点から、実に面白く、有意義な書籍を見つけました。現在は東京大学の特任教授をなさっておられる村沢義久氏が書かれた「日本経済の勝ち方 太陽エネルギー革命」(文芸春秋社、2009年3月)という本です。

 詳細にご報告するゆとりも紙面もないため、とりあえずポイントだけをご紹介します。

*世界経済は、これまでの常識をはるかに越えて大きく変化する。

20世紀を象徴した「石油を燃やす」文明の時代は終わりを告げる。

*石油に代替するエネルギー源は太陽。

*ガソリン車から電気自動車へ

*エンジンからモーターへのシフトが、メカトロニクス産業に大打撃を与える。

*一方、自動車の内外装関連産業は大きく成長する。

*ガソリンスタンドが消える。電源にコンセントを差し込むだけのためにスタンドは不要。

*発電所を中心とする電力事業は大きく変貌する。

*多様なエネルギー源、蓄電装置を組み合わせたネットワーク(マイクロ・グリッド)の運用が電力会社の収益源に。

*ガス事業は存亡の危機に。

*石油産業の規模は、自動車や家庭用などの需要減少で5分の1に縮小する。

*資源戦争が緩和される。産油地域に偏在したエネルギーから、世界中がエネルギー保有国に。

*オイルマネーが消える

*二酸化炭素の排出枠を巡る南北問題がなくなる。

実は、まだまだ興味深い論点があるのですが、ぜひ書店で目を通して見てください。

 かなり長い時間軸が必要な構図だと思うのですが、20世紀の資本主義を象徴する「石油」と「自動車」の位置づけが大きく変貌するという村沢氏の議論には、強い説得力があります。

 

 そういえば、英国石油(British Petroleum)が2001年に社名を「BP」とした時のキャッチフレーズが「Beyond Petroleum」(石油を越えて)。 石油業界の人たちのほうが、石油の将来を真剣に見つめていることは言うまでもありません。

 そのような変化の中で見ると、GMに莫大な資金を注ぎ込み必死の再生を図る米国の産業政策の行方が注目されます。過去の鉄鋼産業や自動車産業に対する強力な保護政策の成果は、今日の両産業の状況を見れば明らかです。

 そこで現実に戻って、現在の株式市場の調整について考えてみたいと思います。

 

 下の図は、大恐慌時代のダウ平均株価の底値(1932年)と、日本の株価が大底を付けた時とを重ね合わせて見たものです。実は、日経平均株価が10,000円を付けた直後に「ひと休みモード」スタンスを転換した理由がここにあります。1932200920090712

 この調整は、あと数カ月続く可能性があります。

 

 ただし、弱気は禁物です。理由は、1930年代の米国の株式市場のその後の展開です。丸で囲った部分が調整局面の位置です。19295420090712

 となれば、歴史的な下落を記録した日本の株式市場が1930年代の米国のように上昇するのかどうか知りたくなりますね。 もし、以前の経済への単純な復帰であるならば、その可能性は高くないでしょう。しかし、村沢氏の指摘されているような大変化をともなう回復であるならば、その可能性は十分高いと考えています。

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2009年7月 6日 (月)

日米両国の株式市場調整について考える

 日米の両市場とも調整局面が続いています。先週の日経平均株価は0.6%下げました。ダウ平均株価の下落率は日経平均株価を上回る1.8%となっています。終値ベースで直近の高値から見ると、日経平均株価は3.2%、ダウ平均株価は5.9%低くなったことになります。20090706_2

 興味深いのは、両市場とも3月に底値をつけてから基調としては上昇局面にあるのですが、日経平均株価の上昇率が高く、下落率が小さいのです。そのため、日米の株価乖離の拡大が続きます。底値から現在までの上昇率は日経平均株価が39.1%、ダウ平均株価が26.4%とかなり大きな格差がついてしまいました。

 そこで今日は、なぜダウ平均株価がもたついているのかについて考えてみたいと思います。

 結論を先に申し上げておけば、意外に思われるかもしれませんが、米国経済の回復のペースが日本経済に比べて遅いのです。

 米国の景気の状況を在庫循環モメンタムで見てみましょう。出荷金額の増減率から在庫金額の増減率を差し引いた指標です。

 使用するデータは米国商務省の「出荷・在庫・受注統計」(Manufacturers’  shipments, Inventories and Orders)、一般に「3M」と呼ばれる統計です。最新のものは7月3日に出た5月分です。発表の時期が多少遅いこともあって、どうも人気のある統計とは言えないのですが、その中の一部のデータが一足早く発表されます。「耐久財受注」として人気のある指標です。

 それでは、全製造業の在庫循環モメンタムです。その指標を構成する出荷の増減率は細い実線、在庫の増減率を細い点線で示してあります。20090706

 出荷が大きく落ち込んでいます。これは売上高の推移と看做すことができますから、米国製造業の減収幅はかなり大きく膨らんでいるようです。一方、在庫も大幅に減少していて、厳しいコスト削減と資産圧縮の努力を示唆しています。

 このような状況下ですから、在庫循環モメンタムは明確な底打ちはしたものの、反騰に勢いがつきません。

この在庫循環モメンタムとダウ平均株価の動きを見るとかなり強く連動しています。

7月3日に発表された5月の統計を用いた在庫循環モメンタムは-15.42と前月の-15.24をわずかに下回ってしまいました。ダウ平均株価もしばらくの間は停滞気味に推移する可能性が高いことを示唆しています。

それでは日本はどうなのか? 経済産業省の発表する「鉱工業生産・出荷・在庫指数」(「鉱工業生産動向」と呼ばれます)と日本銀行の「製造業部門別投入・産出物価指数」を用いて作成した在庫循環モメンタムを、米国のものと比較すると明らかな差が目につきます。20090608

赤い太線が日本の鉱工業在庫循環モメンタムです。大底をつけた後の反発力の強さが際立っています。

どうもこの差が、両国の株式市場の展開の差になって表れているように思われます。

より詳細な議論を、私のブログである「スケアクロウ投資経済研究所」 http://kakashi490123.cocolog-nifty.com/blog/ の中で、「なぜ日経平均の上昇率はダウ平均を凌ぐのか?」という表題でしてみました。ご興味があればご参照いただければ幸いです。

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2009年6月29日 (月)

「会社四季報」を考える(その2) : かかし

 日米ともに株価の動きが一休みです。先週の日経平均株価は0.9%上昇して、その前の週に3.4%下落した分を幾分取り戻しました。一方、ダウ平均株価は2.9%。1.2%と2週連続で下げています。20090629

 この結果、日経平均株価の上昇率がダウ平均株価を上回る状況が続き、日米の株価乖離の拡大が止まりません。20090629_2

 チャートから見ても、日米両市場の調整の動きは明らかですね。となれば、この先をどう読むべきなのか気になるところです。

 日経平均株価は3か月ほどで底値から40%上昇しました。ダウ平均株価も同様に29%上げています。調整が入ってもおかしくない時期です。

 ところが、この調整の小ささは実に驚くべきことと言わざるをえません。実際のところ、「調整」というより、動きが多少緩慢になったという程度です。

 日経平均株価のザラバの動きを追っていると、下値を支える買いエネルギーの強さに驚かされます。

 マーケットを素直に読めば、現在の動きを本格的な調整の始りと見て悲観的になりすぎるのはリスクが大きいと言わざるをえません。

 ただ、現在は一休みの時期であるとは見ていますので、先週に続いて「会社四季報」について考えてみたいと思います。

 ブーメラン原稿

 「会社四季報」の特徴は、上場全銘柄について2期分の業績を予想していることです。この業績数字の中の営業利益の変動を記述したのが「記事」として掲載されます。特殊な事情がない限り、経常利益や当期(税引き後)利益ではありません。

 元編集長は、業績数字を会社予想と比べて見るだけでなく、四季報の前号と比べてみてほしいと強調しています。

 その業績を説明するものとして「記事」があるわけですが、編集長を含め7-8人のチェックが入ります。

 若い記者にとっては、このチェックが地獄だそうです。何度も何度も突き返されます。そのような原稿を「ブーメラン原稿」と呼びます。

 短い記事ではあるのですが、このような苦労が背景にあることを知ると、読者としては読む楽しみが増すような気がします。

元編集長のボヤキ

 田北氏はかなり力をこめてボヤきます。「個別銘柄も大切だが、巻頭にある『XX号のポイント』や、業績集計表、さらにその詳細を示す業種別業績展望をぜひ読んでほしい」。

 よほど読まれていないのですかね。

 ただ、今回の夏号では、2010年3月期の営業利益が16.6%の減少になると記してあります。2009年期が53.9%の減益ですから、大幅な改善が見込まれているわけです。

 ところが、この16.6%減益という数字は、実のところ前号と比べれば下方修正になっているのです。つまり、期待された回復のペースに遅れが生じていると読めるわけです。

 偶然でしょうが、発売日以降株式市場に停滞色が強まりました。

 株式市場での個人投資家の存在感が高まっています。「四季報相場」が話題となることがあるかもしれません。念のために申し上げておきますが、私は一読者であって、決して東洋経済の社員ではありません!

「会社四季報」の欠陥

 元編集長によれば、「会社四季報」には大きな欠陥が2つあるそうです。

 ひとつは中長期の業績予想がないこと。試みたこともあるのですが、あきらめたそうです。金利や為替の動向など前提条件が読み切れないことがネックでした。そこで、次善の策として、田北氏は「設備投資増加率ランキング」を利用してほしいと提案しています。成長性の高い企業は、設備投資に対する積極性から、ある程度見極めることができると指摘されています。

 もうひとつの欠陥は、「経営者の器」を測ることができないこと。数値化しにくいということが最大の理由なのですが、たしかに最も重要でありながら、最も難しい領域と言えます。田北氏も良いアイデアをお持ちというわけではありませんでした。

 しかしながら、面白いことをおっしゃっていました。「企業のホームページを見て、社長の顔写真と経営理念が明確に記載されていること」。やましいところのある企業のホームページには社長の顔写真が載っていないことが多いのだそうです。それから、「企業理念と現実のビジネスが整合的であること」。土地勘のない分野でバタバタしているのは良くないのだそうです。なるほど!という感じですね。

財務分析指標はROAとROE

「会社四季報」の限られた紙面の中で、削りに削って精選された財務分析指標はROAとROEでした。それには重要な理由があるのですが、長くなりすぎるので、私のブログである「スケアクロウ投資経済研究所」 http://kakashi490123.cocolog-nifty.com/blog/で、「『会社四季報』が選び抜いた財務分析指標の意味」というタイトルで書きました。ただし、これは、田北氏の見方ではなく、私自身の見方をまとめたものです。もし時間が許すようでしたら、お眼を通していただければ幸いです。

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2009年6月22日 (月)

「会社四季報」を考える(その1) : かかし

 東洋経済新報社の顔ともいえる「会社四季報」の編集長をなさっておられた田北浩章氏のお話を伺う機会がありました。実に興味深い内容で、その一端をお伝えしてみたいと思います。

「会社四季報」って何?

 日本の全上場会社(3803社)について、会社の業績や財務のデータ、記者の会社に関するコメントなどを記載したものです。元編集長の田北氏は強調しています。「『会社四季報』は決してデータ集ではない」「記者の眼を通して作られた評論誌だ」。

 確かに、ライバルであるN社は新聞も発行しているため、それとの整合性の問題もあって、記述の自由度が小さくなると言えるかもしれません。その点では、「会社四季報」は、より大胆に意見を述べることができそうです。

「会社四季報」はどうやって作るの?

 記者120人、データ処理250人、計370人で作ります。これだけ大人数でも、締切間際には昼夜の区別がつかなくなるそうです。

 昭和11年、2.26事件の年に創刊されました。それから今まで続いています。実は、正確に言うと昭和20年は発刊されませんでした。終戦の年で、印刷する紙がなったからです。

 ちなみに、編集の激務は言語に絶するそうです。「もう二度と編集長はごめんだ」と繰り返しておられました。

「会社四季報」はいつ出るの?

 年に4回出ます。春、夏、秋、新春の4回です。「冬」という言葉は使わないそうです。まあ、理由はわかりますが。

 月で言うと、3月-6月-9月-12月の4回です。

 ところで、この4回のうちどれが一番売れるかわかりますか?

 夏号、つまり6月だそうです。理由は企業の3月本決算のデータが記載されるためです。

 それでは、一番売れないのは?

 秋号(9月)です。3月の本決算の結果が記載される夏号、9月中間決算の内容を確認できる新春号との間にあるために、投資家の興味が弱まるためです。

 ならば、田北元編集長の一番のおすすめは?

 面白いことに、これが売れ行きとは大分違うのです。もしご興味をお持ちでしたら、詳細を私のブログ「スケアクロウ投資経済研究所」 http://kakashi490123.cocolog-nifty.com/blog/  に「年4回の『会社四季報』どれが一番?」というタイトルで多少詳細に書いておきましたので、ご覧いただければ幸いです。

 次回は「会社四季報」の内容の特色とその読み方について、田北氏のお話と、読者である私自身の考え方を取り混ぜてご報告したいと思います。

 追伸

「会社四季報」の売れ行きは?

 田北氏のお話を伺った日は、ちょうど夏号の発売日当日でした。当然のことですが、氏も相当に気になっていらっしゃったようで、紀伊国屋での販売部数が正確に頭にインプットされていました。

 雨でも降れば、売上は一挙に1-2割は落ちてしまうそうです。

 幸い雨は降らず、株式市場の上昇もあって、販売は絶好調。ライバル社に格差をつけているようです。しかも、「圧倒的」な格差なんだそうです。もちろん、私は別に確認したわけではないのですが・・・ 

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2009年6月15日 (月)

日経平均株価10,000円到達の意味を考える : かかし

先週の米国ダウ平均株価はわずか0.4%の上昇にとどまったのですが、日経平均は約3.8%上昇して、とうとう10,000円の大台を突破しました。終値ベースで310日の7,054.98円から見ると44%弱上がったことになります。

このブログでの最初の投稿は昨年121日。タイトルは「嵐の船出」。厳しい相場環境でした。その後「不況に負けない元気な株を探し出す」、「次の一手を考える」、「さらに一歩」「ちょっと一息」そして「匍匐前進」と書き進んできました。20090615_2

 そして、次にどのようなタイトルで話を進めようかと思案中なのですが、なかなかいいアイデアが浮かんできません。

 そこで、今日は日経平均株価が44%近く上昇したことの意味を考えてみたいと思います。

 実は、この程度の上昇率は個別銘柄では決して珍しいことではありません。

 私事にわたることで恐縮なのですが、みずほ証券という証券会社で株式のストラテジストをしていた時のことです。

 2003年4月から5月にかけて銀行株が安いと感じで思い切って買いました。仕事の制約から従業員持ち株を通じて買うことしかできなかったので、みずほ銀行株を買ったのです。 一株6万円近辺。4月の安値が5万8千3百円でした。

 1年後に所用のため持ち株の半分を売りました。一株35万円。その月の高値は45万5千円でしたから、うまい売り方ではありませんでしたが、それなりに満足でした。

 さらに1年後、残りの半分を売りました。1株50万円。その月の高値は51万6千円でしたから、ちょっと自慢でした。

 しかし、その翌年には株価が102万円を付けたため、自慢は止めてしまいました。

 個別銘柄はこのくらい動きます。現在も、すでに動きだしているように見えます。

 でも、市場全体が44%も上昇するというのは、かなりすごいことです。現在対ドル円レートは98円。もし円の価値が44%下がると141円。こうなると、世の中がだいぶ変わって見えてきます。これに匹敵するような変化がわずか3か月の間に現実に起こったわけです。

 そこで、株式市場の変化による影響を考えてみたいと思います。

 考える材料は、1991年(平成3年)に経済企画庁が発表した年次経済報告。タイトルは「長期拡大の条件と国際社会における役割」となっています。そこでは、資産価格の変動と景気循環に焦点をあてて、資産価格の変動が実体経済に与える影響をかなり詳細に論じています。

 バブルの崩壊で株価が急落していることの影響を分析しているのですが、要はその分析を「逆さ読み」しようというわけです。

 まず、「富効果」。経済企画庁はケインズ、ピグー、モディリアーニなどの経済理論を用いながら、株式市場の10%の下落が消費を0.4%低下させると指摘しています。ということは、43%の株式市場の上昇は消費を1.7%増加させるインパクトを持つと考えてもよいかもしれません。

 もっとも、ブラックマンデーの時のように短期的な変化であれば、消費への影響は限定的であることに注意し負ければなりません。

 次に企業行動への影響です。株価の下落で、エクイティーファイナンスが中断し、借入需要が減少し、資金調達も困難になるとしています。ということは、エクイティーファイナンスの復活、借入需要の増加、資金調達の円滑化が視野に入ってくるかもしれません。

 三つ目は投資行動です。経済企画庁はトービン効果を論拠に、株価の下落が設備投資の減少を引き起こすと述べています。であれば、株価の上昇が設備投資の増加を導く可能性があると言えそうです。

 これらの効果が表れて、新聞や雑誌が書き立てるのは、まだ何か月も先になるのでしょうね。しかし、3か月前とは状況が大きく変わったということは間違いないと考えてもよさそうです。

 ところで、本当の問題はこれからです。どうもこの10,000円台到達が終着点ではなさそうなのです。むしろ、もっと大きな変化の出発点にすぎないのかもしれません。さて、これから一体どうなるのでしょう? その予測は、これからのお楽しみということに・・・・・

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2009年6月 8日 (月)

米国の出荷・在庫の動向を読む : かかし

日米の株式市場が堅調さを維持しています。先週は日経平均株価が2.6%、ダウ平均株価は3.1%の上昇となりました。これで、3月上旬の底値から見ると日経平均で38%強、ダウ平均で34%弱上げたことになります。20090608_2

個別銘柄ならともかく、市場全体がわずか3か月という短期間に4割近くも高騰するという事態はそう頻繁に発生するわけではありません。

 前回は景気指標と株価の高い連動性から、景気指標の底打ちが、この株式市場の高騰の重要な要因の一つになっているとお話しました。

 その時に用いた景気指標が「在庫循環モメンタム」です。出荷金額の増減率から在庫金額の増減率を差し引いて作る比較的に簡単なものです。

 そこで今回は、3日に米国商務省が発表した4月の出荷・在庫統計、正確には‘Manufacturers’ ShipmentsInventories and Orders’と呼ばれる統計を用いて、米国の全製造業在庫循環モメンタムの動向を見てみたいと思います。

 最初に結論を申し上げておくと、日本と同様に米国の景気指標も鮮明な底打ちを示しています。これが、日本と同様に上昇を続ける米国株式市場の重要な理由の一つであろうと考えられます。

 それでは、米国の全製造業在庫循環モメンタムを長期的な視点から見てみましょう。2つのオイルショック、ITバブルの崩壊、サブプライム問題の深刻化、そして今回と何度か大きく下落したことがわかります。20090608_3

 次に、最近の動きをもう少し詳細に見てみましょう。かなり変化が出てきたことが鮮明に浮かび上がります。底打ちが鮮明になっているのです。4月は前月に比べわずかに下落したのですが、基調に変化はありません。20090608_4

 さて、問題はここからです。果たしてこの上昇は続くのか、あるいは下落に転じるのか?

 私は上昇が続くと考えています。全製造業の内訳をここにチェックしてみると、上昇に転じる分野が次第に増えています。ですから、その集積体である全製造業の在庫循環モメンタムは下落ではなく上昇の可能性が高いと見ます。

 

参考までに、ハイテクの代表として、コンピュータ及びその関連製品の在庫循環モメンタムの動向をご覧ください。底打ち反騰の傾向が全製造業以上に鮮明であることがわかります。20090608_5

 注目の自動車はどうでしょう? この厳しい業界でさえ在庫循環モメンタムは底打ちが明確です。もっとも、出荷の基調は依然として弱く、懸命な在庫圧縮の努力が在庫循環モメンタムの底打ちを支えています。2009060800000

 というわけで、米国の在庫循環モメンタムの底打ちが、米国の株式市場の上昇を担う重要な要因のひとつであること、そして指標の反騰が続くため、株式市場の上昇基調も続く可能性が高いことがおわかりいただけたと思います。

 もちろん、短期的な株式市場の調整はあると思いますが、基調は強く、強気で臨みたいと考えています。

 そうなると、日米の在庫循環モメンタムを比べてみるとどうなのかという興味が湧いてくるかもしれません。

 実は私もそこに一番注目しています。

 面白いことに、日本の指標の上昇率が米国を上回っています。それに呼応するかのように、日本の株式市場の上昇率が米国を上回り、日米の株価乖離が恒常化する兆しさえ見えています。

 このあたりの多少詳しい分析を、私のブログである「スケアクロウ投資経済研究所」 http://kakashi490123.cocolog-nifty.com/blog/ で「日米の在庫循環モメンタムが示す株価の方向性」というタイトルで昨日書きました。合わせてご参照願えれば幸いです。

 最後に蛇足ですが、「在庫循環モメンタム」などオリジナルな指標を使うことが多いため、もしご興味をお持ちでしたら、日本経営合理化協会で発行している私のCD「景気循環で株式を読むCD」をご覧いただけると幸いです。指標の解説にもかなり時間を割いています。詳細はこちらです。 http://www.jmca.jp/prod/1002/1033/

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2009年6月 1日 (月)

4月の鉱工業生産動向を読む : かかし

先週は日米とも堅調でした。日経平均株価の上昇率は3.2%とダウ平均株価の2.7%を上回っています。2009053100000

 ダウ平均株価の伸び率を日経平均株価が上回る状況が2月中旬以降続いており、どうやら日米の株価乖離が恒常化しそうな気配です。20090531

 個人的には日経平均株価の短期的な調整リスク、つまりスピード調整がいつあってもおかしくないと思っています。そのリスクは常に念頭に置くとして、はたして基調はどうなのでしょう?

 先週金曜日に発表された4月の鉱工業生産動向を通して、株式市場の方向性を見てみたいと思います。

 まず、鉱工業生産の動向です。原指数の前年同月の水準を31.2%と大きく下回っています。とても底打ちを確信させるような力強さは見えません。2009053100001

 ところが、鉱工業出荷や在庫の動きを見ると、まったく異なった姿が浮かび上がってきます。

 出荷金額の増減率から在庫金額の増減率を差し引いたものを「在庫循環モメンタム」と呼ぶことは、これまで何度か説明させていただきました。

 鉱工業の在庫循環モメンタムがかなり鮮明に底打ち、反騰の動きを見せ始めています。図をご覧いただければお解りのとおり、点線で示した在庫金額が大きく減少している中で、細い実線の示す出荷金額がようやく底打ちの気配を見せ始めました。そのため、赤い太線の示す在庫循環モメンタムが大きく反発したのです。20090531_2

 なぜこの指標を、株式市場の基調判断の重要な材料にするのか? 言うまでもないことですが、この指標と日経平均株価がほとんど同じ動きをしているからです。R20090531

 そこで、ちょっと細かな話になって恐縮なのですが、在庫循環モメンタムを構成する要素について、それぞれの動きを追ってみましょう。太い青線は出荷数量の増減率の推移を示します。細い赤の実線は在庫数量の増減率です。そして、細く青い点線が産出価格、つまり出荷価格の推移です。最後に細く赤い点線が投入価格、すなわち原料調達価格の推移です。これらが、在庫循環モメンタムを構成しています。20090531_3

 このグラフから読み取れるのは、在庫数量の減少が続く中で、ようやく出荷数量にも底打ちの気配が見えだしたこと。そして、出荷価格の下落はつづいているものの、下落率はわずかに緩やかになりはじめる一方で、投入価格つまり原料購入価格は一段と下落しています。

 とりわけ重要なのが、在庫数量に投入価格を掛け合わせて算出する在庫金額の動向であることは言うまでもありません。

 このように、ひとつひとつの要因をチェックしていくと、在庫循環モメンタムの今後の方向性は上昇基調であって、下落基調ではないことが確認できます。

 そして、この指標と日経平均株価との連動性を考えれば、株式市場の基調としての方向性は上昇であって下落ではないということになりそうです。。

 鉱工業生産動向について、主要セクター別に多少詳しく分析したものを、昨日(5月31日)私のブログである「スケアクロウ投資経済研究所」http://kakashi490123.cocolog-nifty.com/blog/ に「鉱工業生産動向が6月相場の牽引役に?」というタイトルで掲載してあります。もしお時間があるようでしたら、合わせてご参照願えれば幸いです。  

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2009年5月25日 (月)

匍匐前進(その4) : かかし

 先週の日経平均株価とダウ平均株価は一時大きく動いたのですが、結局は小動きに終わりました。日経平均株価が0.4%下落したのに対して、ダウ平均株価は0.9%の上昇でした。20090525

両者の動きが小さかったため、乖離幅は一向に縮まる気配がありません。短期的にみれば、両者の連動性は非常に高いと言えます。したがって、私たちは日々米国の動向に一喜一憂しながら、投資戦略を練っています。ところが、日経平均株価の上昇ペースがダウ平均を上回る状況が続き、乖離幅が拡大したまま恒常化しそうな雰囲気も出てきました。20090525_2

そこで、果たして乖離が恒常化する可能性があるのかどうか?それを考えてみたいと思います。

結論を先に言っておきますが、恒常化すると断定する勇気はとてもありません。ただ、その可能性が無いわけではないということです。

先日、フィデリティというボストンに拠点を持つ世界的な投資運用会社が日経新聞に一面全部を使った巨大な広告を載せたのでびっくりしました。「世界の視野で日本を見つめて40年」、「日本は負けない」「フィデリティは日本を応援しています」・・・そんな内容の広告でした。もちろん日本株投信の販売促進のためです。

すでに、春先から、証券界の友人を通して日本株ファンドにお金が集まり始めていることは聞いていました。それでも、さすがにびっくりでした。フイデリティは、かなり先を読んでアグレッシブに動くのが特色です。かつてわたしは、そのフィデリティ日本拠点の調査部長をしていた時期もあるので、その意気込みを肌で感じます。

 

もし、日経平均株価がダウ平均株価に連動しているだけなら、なにもそんなに力を入れる必要もないでしょう。

では、なぜか?当然ですが、日経平均株価がダウ平均株価を大きく上回る可能性があるからです。すでに、このブログでお話させていただいていますが、長期的に見れば日米の株価の動きは全く逆であるところがポイントです。Ny20090525_2

日本がバブルの絶頂期に40,000円近い株価に浮かれていた頃、ダウは2000ドル台半ばでした。そんなに昔のことではありませんね。そして、日本は7000円を瞬間的に切る水準まで下落する一方で、ダウは14,000ドルに上昇しました。

この動きの背景には長期の景気サイクルがあるのですが、すでにお話させていただいたことでもあり、今回は割愛させていただきます。

その視点から見れば、実は現在生じている両指標の乖離が、恒常的というより、さらに拡大していく可能性さえあるのです。

といっても、私にはそこまで断定する勇気もありませんし、データも不足しています。短期的にはGMの展開が気になってしようがありません。ただ、「まだはもうなり」「強気相場は悲観のなかに生まれ、懐疑のなかに育つ」とも言われます。アクティブなお金は、私たちを待っていてはくれないようです。

この長期的な視点からの見方については、先日ご紹介させていただいた私の講演CD「『景気循環』から株価を読む」(日本経営合理化協会)で、かなり詳細に述べました。もしご興味をお持ちでしたら。こちらをご参照ください。http://www.jmca.jp/prod/1002/1033/ 

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2009年5月18日 (月)

匍匐前進(その3) : かかし

先週は調整でした。日経平均株価は約1.8%、ダウ平均株価も約3.6%下落しました。果たして、この調整局面は長引いて、大幅な株価下落になる可能性があるのか?気になるところですね。20090518

 結論から言えば、調整は多少長引く可能性がありますが、それは次の上昇のために不可避なプロセスであって、構造的悲観論は避けるべきだということです。私は現在のスタンスを「前進」ではなく「匍匐(ほふく)前進」としているのですが、なぜ「匍匐」なのかというと、このような調整局面が想定の中にあるからなのです。

 まず、先週の調整について考えます。これは、先々週の大幅な株価上昇の反動という要素が大きいと思います。日経平均株価は5%強、ダウ平均株価は4.4%も上昇したのです。加えて、3月上旬の底値から日経平均株価で31%、ダウ平均株価で26%も高い水準にあるわけですから、この程度の調整はあって当然という感じです。

 ただし、おそらく調整はこれで終了というわけには行かないでしょう。しばらく続く可能性が高いと考えます。

 その最大の理由は、日本の株式市場が上昇の拠り所としてきた米国市場が調整局面の可能性が高いことです。ストレステストという大きなテーマが織り込まれてしまったあと、それを引き継ぐ大きなテーマが見えないのです。CNNは投資運用会社スティフェル・ニコラス社のトム・シュレーダー氏の「私たちは次のカタリスト(触媒=市場牽引役)を待ち望んでいる」という言葉を引用して市場動向を解説していますが、まさにそのとおりです。

 

2つ目の理由は、日本独自に株式市場をリードするテーマが見当たらないことです。しかも、日本株の上昇率が米国株を上回ってきた結果、日米の株価乖離幅が大きく拡大してしまったことです。20090518_2

 3つ目は、豚インフルエンザ。それ自体は弱毒性とはいっても、2次感染のため、学校の休校、イベントの中止、外出の手控えなどが、当然消費動向に影響を及ぼしますし、株式市場のセンチメントを重苦しいものにする可能性が高いと考えられます。

 最後に、5月20日の朝発表される第1四半期のGDP1次速報値です。

他にも理由はあるのですが、いずれにせよ調整を念頭において株式市場に臨みたいと考えています。

 ただし、この調整が中期的な上昇局面において必然的に生じるものであって、構造的な悲観論は避けるべきだということを頭に入れておくことが必要です。なぜ中期的な上昇局面と言えるのかという点については、すでに在庫循環モメンタムという指標をつかって説明させていただいたとおりです。

「匍匐」の姿勢を忘れないよう心がけています。

 ところで、話は変わるのですが、私(「かかし」)がCDを作りました。といっても歌を歌うわけではありません。タイトルは「景気循環で株式を読むCD」。日本経営合理化協会から出ます。120090515

 景気サイクルと株価の関係を基本的な視点として、歴史的な転換点にある日本経済と株式市場の現状と今後を、思い切って分析してみました。

 詳細については、お手数ですがこちらでご確認ください。http://www.jmca.jp/prod/1002/1033/

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2009年5月11日 (月)

匍匐前進(その2) : かかし

 先週は日米とも好調でした。日経平均株価は5%強、NYダウ平均株価は4.4%上昇しています。20090511

 今日は株式相場のローテーションについて考えてみたいと思います。これまで、ディフェンシブ銘柄とか景気敏感銘柄などを、特に説明することもなく使ってきましたので、ここである程度まとめておいたほうが良いと考えました。

 以前お話させていただいたと思いますが、景気と株価には強い連動性があります。その関係を要領よくまとめた書籍として、「ブラジルに雨が降ったらスターバックスを買え」(2002年、ダイヤモンド社)があります。カリフォルニア大学のピーター・ナヴァロ教授が書かれたもので、私もおおいに参考にさせてもらっています。

 その内容を詳細にご紹介する時間もスペースもないのですが、私なりに図解したものがこれです。20090511_2

 ポイントは、景気と株価が連動しており、景気の局面に応じて共通の特色を持ついくつかのカテゴリーが異なった変動をするということです。

 たとえば、景気が悪いときは、不況抵抗力の強いディフェンシブな銘柄群の株価が堅調に推移するケースが多く、景気が良いときには、成長性の高い元気な銘柄群(景気敏感株やハイテク株など)の株価が好調であることが多いと言えます。

 ナヴァロ教授は、この図からもお解りのとおり、景気サイクルにたいして株式市場のサイクルが先行すると指摘しています。ただし、その先行性(ギャップ)については、必ずしも明確に説明されているわけではありません。

 実は、私が「在庫循環モメンタム」という指標を多用する理由がここにあります。この指標が一般の景気指標に対して先行性を持つためなのです。

 なぜ先行性をもつのか? 単純な理由です。出荷や在庫の動きを水準ではなく変化率で把握するからなのです。

 そして、その在庫循環モメンタムは、前回にも指摘しましたが、反騰に転じました。そのため景気敏感循環株に注目しています。

 もう少し具体的に、どのようなカテゴリーに注目したら良いのでしょうか?

 ナヴァロ教授の図からは、自動車などの輸送用機器、金融などが浮かび上がります。

 私は、不況克服のための公共投資や減税の恩恵大きな分野に注目しています。住宅関連などが面白いと見ています。また、グローバルに見た公共投資という観点からは、地球環境にやさしいグリーン・インダストリーにも注目しています。排気ガス除去装置の日本ガイシなどです。

 さらに、不況によるリストラや業界再編成の恩恵を受ける分野についても注目していますが、これについては私のブログ「スケアクロウ投資経済研究所」 http://kakashi490123.cocolog-nifty.com/blog/ で「なぜリストラで株価が上昇するのか?」というタイトルで述べています。併せてご覧いただければ幸甚です。

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