米国経済

2010年5月26日 (水)

ギリシャ財政危機は我々に何を語っているのか: 呂 新一

ギリシャ財政危機をきっかけに、世界的に株価は大暴落を続いています。

 

ギリシャ財政危機についての議論は、大まかに言うと、2つの道に分かれます。1つはユーロ圏で発生した問題として捉え、ユーロが存続できるのかどうか、或いはユーロがどこまで下落するのか、の議論です。もう1つは、財政が火の車というギリシャの窮状は実はほかの国も抱えている悩みであることに注目し、次の修羅場となるのがどこの国か、との議論です。

 

ユーロが存続できるのかどうかについて、まず、頭に浮かんだのは、ヨーロッパの人達が連合された欧州を昔から理想として掲げ、長い歳月をかけてやっと通貨統合の段階に辿りついた事実であり、その意味では、ユーロを解体させることは、多くのヨーロッパ人にとって苦痛に満ちた選択となるでしょう。一方、現在の形でユーロを存続させるのは無理であることも明らかです。即ち、今後もユーロを存続させるなら、統合をさらに進め、参加国の財政支出基準まで統合するのか、或いは、一歩退き、ギリシャなど元々平時でも3%基準を満たしていない国々を暫くの間ユーロから離脱させ、少数先鋭の集団からユーロを再スタートさせるのか、のどちらかしかないです。ただ、よく考えれば、各国とも不景気に悩み、財政による景気刺激策を考えている現在、その財政の決定権をEUに委ねることは非現実的でしょう。他方、いま直ぐギリシャなどの国を除名することも市場へのインパクトを考えればありえない選択です。従って、当面、良い選択肢がなく、ユーロ諸国は暫くの間、市場の波乱がこれ以上広がらないように時間稼ぎに専念すると見られます。

 

そして、もう1つの議論の焦点である、次、どこの国が第2のギリシャになるのかについて言うと、南欧諸国のほか、候補者はまた沢山あります。ただ、より本質的なことは、どこの国が第2のギリシャになることではなく、今まで世界の主流を占めている経済発展パターンがこのまま維持できるのかどうかのことだと思われます。

 

ここで、筆者は「経済発展パターン」という言い方を使いっていますが、より厳しい言葉を使うと、「生活レベルを維持する方法」ということになるでしょう。即ち、南欧諸国だけでなく、日本、アメリカ、果てはイギリスまで、今までの経済発展パターン、或いは国民の生活レベルを維持するため、国債を発行し続き、将来の世代から許可もなく返す当ても膨大なお金を借りてきました。フランスのルイ15世は「朕の後は野となれ山となれ」という有名な言葉を残したが、今の西側諸国の政治家は、自分が当選するため、過度に国民に甘い将来を期待させる一方、まだ生まれていない(当然、選挙権を持っていない)将来の国民に負担を強制し、負債だけを残すことにしています。このやり方はルイ15世とそれほど変らないと思われます(ルイ15世はそのような酷いことを言わなかったとの説もあり、それが本当であれば、ルイ15世に申し訳ありません)。このようなやり方はいずれ限界を迎えることは明らかです。

 

一方の中国は、表向きでは国債などのツケを将来の世帯に押し付けることはあまりないが、環境・資源など、将来代々の中国人が生存する条件を酷く破壊してきました。中国食品薬品監督管理局の資料によれば、工場からの汚染された工業水や、化学肥料、農薬によって、河川、湖及び近海に深刻な環境汚染が起き、河川、湖については6割が深刻な汚染に侵されています。深刻な環境汚染、資源破壊は、償還金当てのない国債発行と同じく、将来の世帯へのつけ回しでしかありません。その意味では、今の中国の経済発展パターンも持続不可能と思われます。

 

ギリシャ財政危機を1つのきっかけに、世界範囲で株価がここまで下落したことは、市場参加者が金融危機を乗り越えたとしても、今までの経済発展パターンがここまま持続できるのかどうかという正体の知れぬ恐怖にとられているためである可能性があります。

 

このまま株価が下落していくと、近いうちに、景気の変調を示す経済統計が次々に発表され、相場のベア・マーケット入りにお墨付きを与えることになるでしょう。

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2010年5月19日 (水)

米株、中国株の行方:   呂 新一

まず、米国経済を見ると、ここ10年の間に、2回も大きなバブルをやりました。1回はITバブルで、もう1回は住宅バブルです。このことは、もしバブルがなかったら、米国経済が一時的なものにせよ、世界を魅了する盛り上がり、或いは輝かしい未来への憧れも演出できなかったかも知れないことを示唆しています。

 

ただ、バブルのお陰で米経済が最高のパフォーマンスを演出できたとしても、その後始末が大変厳しいものです。今回の住宅バブル崩壊で言うと、その影響で米国民の生活水準が元に戻れなくなり、そして、失業率は10%前後の高い水準で徘徊しています。

 

そして、ここ20年ほどのデータを見ると、景気が後退期から回復期に入った後の雇用回復は、毎回、前回に比べペースがゆっくりなり、雇用の増加数も減ってきています。このことは、米経済の雇用創出能力が落ちてきたことを如実に反映していると思われます。このような構図が今後も続くなら、今の米景気回復が力弱いものに止まる可能性が高く、そして、長期的に見ると、米経済はその優位性を失うことになります。

 

日本経済は、失われた20年に突入しましたが、アメリカ経済も株価だけで見れば、失われた10年に突入しました。そして、ITバブル崩壊による株価下落と今回の住宅バブル崩壊、リーマン・ショックによる株価下落を比べると、S&P500を例にすれば、ITバブル崩壊当時は、ピーク(2000/03/131464.17)からボトム(2002/09/30800.58)まで、26カ月で45.3%下落し、今回の住宅バブル崩壊、リーマン・ショックでは、ピーク(2007/10/081561.8)からボトム(2009/03/02683.38)まで、15カ月で56.2 %下落しました。言うまでもなく、今回の方はマグニチュードが大きい。言い換えれば、今回の景気回復が2002年当時より道のりが長く険しいものになる可能性があります。当時は、FRBが実質のマイナス政策金利を長期間放置し、住宅バブルを作り出し、その資産効果で景気回復を図りましたが、今回は、同じような手が使えないと思われます。というのは、バブルが膨らんでいき、そして崩壊の繰り返しに翻弄され疲れてきた米国民が、今回もFRBがバブルの発生を黙認ないし助長していることを察知したら、今度こそ、全ての怒りをFRBに向かって爆発するかもしれません。米議会も、FRBの責任を追及すると思われます。

 

このように、米景気回復が弱いものに止まる可能性が高いため、昨年驚異的な回復ぶりを見せた米株は、今年はそれほど高いパフォーマンスを見せてくれないと思われます。

 

また、当面の米株価動きについていうと、筆者は512日付けの本欄「ギリシャの財政危機とこれからの株価」において、以下のように述べました。「NYダウは暫くの間、4月26日に付けた高値と5月7日に付けた安値の範囲内で動く可能性が高い。そのうち、新高値を付ければ上昇トレンド入りとなるが、それが出来なければ、5月7日の安値を下回る可能性が高くなり、2月の安値が新たな下値サポートとなろう」。今のところ、NYダウは依然4月26日に付けた高値と5月7日に付けた安値の範囲内で動いています(下記チャート参照)が、一言だけを付け加えるなら、株価が2月の安値を下回れば、近いうちに2番底を作るより、下落トレンド入りする可能性が高く、警戒した方が良いと思われます。

 

Nydow

 

他方、中国株について言うと、筆者は428日付けの本欄「中国株  高成長≠高収益」において、幾つかの理由を挙げた後、「今後の中国株を展望すると、我々はそれほど楽観的になれません」と述べました。その後、中国上海総合株価指数は2,907から2,594へと10.8%も下落しました。ただ、今まであまりに急激に下落してきたこと、そして、2,600は重要なチャート・ポイントであることを考えれば、暫くの間、反騰ムードが続く可能性があります(下記チャート参照)。そして、より長期的に見ると、中央政府の政策が景気刺激から住宅バブル抑制・物価抑制に転換したため、中国株がより政策に左右され、昨年以上にボラティリティの高い展開を見せると思われます。

 

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2010年5月12日 (水)

ギリシャの財政危機とこれからの株価:  呂 新一

EU全体の経済規模に対し僅か2.5%しか占めていないギリシャの財政危機が、株式相場にこれほど大きな影響を与えた背景は、恐らく以下の点にあると考えらます。

 

1)ギリシャの負債額が金融危機の発端となったサブプライムローンの残高(約150兆円)より小さいとは言え、19988月にロシアが90 日間支払停止にした対外債務と、20024月にアルゼンチンが宣告したデフォルト債務の合計に匹敵する金額であり、決して小さな額ではありません。ロシアの債務支払停止が一世風靡の大手ヘッジファンドLTCMの倒産に繋がったことは記憶に新しい。

2)ギリシャの次は、伝染病にかかるように、ポルトガル、スペイン、イタリアなどが相次ぎ財政危機に陥ることは危惧されていました。

3)金融危機後の世界景気回復は、巨額な財政出動・資金(信用)供給の上に実現したものであり、ギリシャの財政危機は、このようなおカネの力で景気回復を図るやり方に警鐘を鳴らしています。言い換えれば、おカネ任せの景気回復が脆弱なものであることを喝破しました。

4)ギリシャなど財政が危機的な状態にある国の債務(国債)を抱えている金融機関が不信な目で見られ、市場が疑心暗鬼になり、十分な流動性が確保できなくなる状況も考えられました。

5)株式相場に過熱状態にあり、何らかのキッカケがあれば、株価が急落する可能性は十分にありました(4月7日付けの本欄「NY株式相場、一息いれますか?」を参照)。

 

そして、さらに深層にある背景は、ギリシャを含め、今、この地球で経済成長を図っている殆どの国が、外国からの投資かまたは国債発行かなどの形で、他人または子孫のおカネを使っていることです。例えば、日本は新規国債で予算を組み、アメリカは海外からの借金で国民の車買い替え・新規住宅購入を補助し、財政赤字を増やしてきました。このような状況はとても長く続けられるようなものではなく、大局的に見ると、世界経済が袋小路に入ったことも十分に考えられます。

 

これからのグローバル株価動向を考える際、我々は慎重的な楽観論者です。

 

まず、中国株はさらに下落する可能性が高い。過熱した経済をちょうど良い状態まで冷やし、バブル気味の不動産市場をソフトランディングさせることは決して容易に達成できる目標ではありません。それに、ここ数カ月、ユーロがドルに対し14%も下落した(昨年末:1ユーロ = 1.45ドル 現在: 1ユーロ = 1.27ドル)ことが、中国経済に深刻な打撃を与える可能性があります。中国は自国通貨をドルにほぼ連動させているため、最近のユーロ下落で人民元もユーロに対し約14%上昇しました。ユーロ圏が中国にとって最大の輸出相手であるだけに、ユーロ安による輸出への影響は大きいでしょう。

 

米株について言うと、今後、長期ブル相場を展開するには中身の伴う景気回復が不可欠であり、言い換えれば、雇用状況の改善がキー・ポイントです。ただ、製造業の空洞化を考えれば、雇用の改善が今後も非常に緩慢なペースに止まる可能性は高い。

 

また、米株の中短期動向について言うと、暫くの間、(NYダウは)4月26日に付けた高値と先週金曜日(5月7日)に付けた安値の範囲内で動く可能性が高い。そのうち、新高値を付ければ上昇トレンド入りとなりますが、それが出来なければ、5月7日の安値を下回る可能性が高くなり、2月の安値が新たな下値サポートとなろう。

 

そして、今回の救済措置にそれなりの効果があるかどうかの試金石は、米株よりヨーロッパの株、中でもギリシャへの貸し出しが多いフランスの株価動向と思われます。

 

さらに言うと、ユーロレートの変動は、今回の救済案の成否を測る基準になりません(例えば、ユーロの下落が救済案の失敗を意味しません)。というのは、今回の救済案はユーロを少し犠牲にしても、ギリシャを財政危機から救うことが先決であるという性格を持っているからです。

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2010年4月 7日 (水)

NY株式相場、一息いれますか?  呂 新一

米株式相場は2月5日にボトムを付けた後、反発から上昇へと、天井知らずの勢いで上がってきました。

 

そのような動きに励まされ、マーケットのセンチメントも強気一色で、健全な上昇がさらに続くとの声は圧倒的になっています。

 

しかし、懸念材料はないわけではありません。ここで、その幾つかを見てみましょう。

 

その1つは相場の過熱感です。日本の騰落レシオに似ているモノに、S&P500種構成銘柄のうち50日移動平均を上回っている銘柄の比率と言うのがあります。その比率が100%に近づくほど、より多くの銘柄が50日移動平均を上回る水準にあり、投資家が無選別になっていることを意味します。無論、そのような無選別状態は長続きせず、投資家が冷静になれば、相場が調整局面を迎えることになります。下記チャートはその比率の推移ですが、チャートが示しているように、現行水準は92.8%で、相場はかなり過熱しています。そして、過去3年の間、この比率が92%を超えると、例外なく調整局面に入っていました。

 

Spxa50r

 

もう1つは、長期チャートを見ると、S&P500種は正念場にきていることです。反発に反発を重ね、S&P500種は1,200ポイントの一歩手前まで来ました。この1,200ポイントという水準は、2008年夏のリーマン・ショックに、背中を押され、谷底へ飛び込んだ直前の水準です。言い換えれば、この1,200ポイントを明確に上回ることができるのかどうかは、株式市場がリーマン・ショックを乗り越えることができるのかの試金石です。

 

Spx2010apr

 

このように、相場が大きな関門の前に立っている時、仮に多くの投資家が依然弱気心理に捉われ、投資余力を温存していれば、関門を突破することは容易であると思われます。しかし、現状はその逆で、投資家のセンチメントが非常に強く、VIX指数が過去1年以来の低い水準まで落ちています(下記チャート参照)。

 

Vix

 

このように、株式相場がわが世を謳歌していられる背後に、無論、ファンダメンタルズの改善は非常に大きいですが、その他、FEDによるチップマネーの供給も見逃せません。下記チャートはセントルイス連銀がまとめた1984年以後のベースマネーの推移です。チャートから分かるように、金融危機後のマネー供給は異常としか言えません。

 

Basemoney

 

無論、遅かれ早かれ、FEDはこの洪水のような資金を回収しなければなりません。その回収は簡単なことではありません。一歩間違うと、金利急騰を招き、景気を殺してしまう危険があります。

 

下記チャートはここ半年間での長期(残存期間10年)国債利回り推移ですが、最近上昇していることがわかります。その背景は、景気回復ならびに財政赤字の急増と思われ、暫くの間、反落は期待し難い。

 

10year_yields

 

今までの経験によれば、アメリカ国民が借金漬けになっているため、景気の金利依存度は非常に高い。言い換えれば、何らかの理由で金利が大幅に上昇すれば、それの景気への悪影響を先取りして、株式相場が調整局面に入る可能性は高い。

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2010年3月31日 (水)

中国人民元問題をもう1回考える: 呂 新一

去年の後半辺りから中国人民元の交換レートを巡り議論が盛んになり、そして、今月15日にアメリカの超党派議員130人がガイトナー財務長官とロック商務長官に書簡を送り、中国の「為替操作」問題への対策を直ちに講じるよう求めたことで、人民元問題が一気に緊迫化しました。

 

では、人民元問題は果たしてどうなるのか、解決策があるのか、こういった疑問に答えるため、現状を整理してみる必要があります。

 

一、いま、中国では人民元の切り上げに反対する声が強い

人民元の切り上げに反対する理由はさまざまであるが、もっとも強硬でありかつ広く受けいれられたのは、米国の陰謀論です。即ち、米国が中国の経済発展を脅威と受け止め、かつて日本に対してしたと同じように、中国経済を崩壊させ、自国の優位を保つために、人民元高圧力をかけているとのことです。この見方をしていれば、米国がどうなことを言っても、中国は現行の人民元レートを死守するべきであり、妥協の余地は一切ありません。

2番目に多い理由は、人民元切り上げによってもたらされる実害についての想定です。例えば、人民元高になれば、ホットマネーがこれまで以上に中国に流入し、資産インフレを招きと同時に、人民元高で輸出が落ち込み、雇用が大きな問題になる恐れがあるなどなどです。

そして、3番目に見られる理由は、主に心情によるものです。例えば、人民元は中国の通貨ですので、人民元のレートについて、中国が主導権を握るのは当たり前のことであり、米国の国内政治に利用されたくないとの考えです。

他方、米国内の議論を見ると、人民元切り上げを求める理由は、純粋に経済理論に従う結論から、雇用市場を守るための視点までさまざまです。ただ、中国に見られるような、戦略的なレベルまで高め、そうでなければ米国経済が中国に負けてしまう議論はあまり見当たりません

 

二、切り上げをしたらどうなるのか

中国にとっては、人民元を大幅に切り上げると、輸出が落ち込み、玩具・紡績品など付加価値の低い製品を生産している中小企業が大量に倒産し、その結果、労働市場が大きなダメージを受けると思われます。

他方、アメリカから見ると、人民元が高くなれば、安い製品の輸入先が中国からほかの発展途上国に変わるだけで、貿易赤字はそれほど減らないと思われます。そもそも、前世紀70年代からアメリカの製造業の空洞化が既に始まったので、サプライヤー・チェーがきれいになくなった今、人民元高との理由だけで、製造業を呼び戻すのは容易ではありません。その意味では、人民元の切り上げで雇用回復を期待していた人達は肩透かしを食らう可能性は高い。

 

三、人民元は安くない

米国の政治家は好んで人民元が不当に安く放置されていると言います。しかし、アメリカに輸出された中国製品が安い理由は、人民元が安いというより、本来、製品コストに反映されるべき環境汚染、資源の消耗、地代、そして出稼ぎ労働者の厚生福祉などが、十分に反映されていないためであり、その上、中国政府が輸出を奨励するため、輸出企業に付加価値税の還付を行っているためです。

言い換えれば、中国製品の輸出価格競争力は人民元安より、中国国内の環境、資源、労働者、そして政府の財政に重い負荷をかけたことからきています。

 

四、当面切り上げはない

世界経済がまだ不安定である現在、米国は経済面での相互依存関係を深めている中国をこれ以上刺激しないため、来月中旬に発表される財務省為替政策報告書で、中国を為替操縦国に指定しないと思われます。

他方、中国から見ると、最大の輸出先である米国との貿易摩擦を緩和するため、将来的にある程度の人民元切り上げは止むを得ないと考えている可能性が大きい。そのベストタイミングは、米国からの切り上げ圧力が弱まり、かつ米景気の回復が顕著で輸入品に対する価格弾性値が低くなった時です。そして、切り上げ幅は非常に小さなものに止まる公算が大きい。というのは、仮に人民元を大幅に切り上げすれば、世界中に、中国は米議員の言う通り、“人民元を操作している”と認めることになるからです。

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2010年3月10日 (水)

自作の恐怖指数から日米の株式市場を見る: 呂 新一

今日は話題を変え、長期チャートから、今、日米の株価指数がどの局面にあるのかを見てみます。

 

ここで使う尺度は恐怖指数と言う筆者が開発したもので、全体の出来高のうち投資家による投げ売り(+カラ売り)が占める比率の50日移動平均です。その発想のもとは、投資家は相場の先行きに恐怖を感じればおのずと投げ売りに出るため、投げ売りの量が多いと恐怖感が高まったことを意味します。そして、この投げ売りが全体の出来高に占める比率を取るのは、計算された結果が0-1の範囲内に収まり、使いやすくなるためです。

 

そこで、まず、東京市場のTOPIXを見てみます。下記のチャートは08年9月に起きたリーマン・ショックを含めた期間のもので、赤い線は恐怖指数、ブルーラインはTOPIXです。チャートから、殆どの場合、恐怖指数が0.470.55の範囲内で動いていることが見て取れます。普通、恐怖指数が0.55まで高まれば、投げ売りが続出し相場が陰の極に達したため、長期投資家にとって株式購入の絶好のチャンスです(無論、リーマン・ショック直後の0810月のように、今まで経験したことのないような大きな地殻変動が起きった時は、0.55を上回ることもありえます)。他方、投資家が相場の先行きにすっかり安心しユーフォリアに浸っている際は、恐怖指数が下落します。過去数年のデータでは、恐怖指数が0.47まで下落すれば、相場が陽の極に近づき、手持ち株を売却する好機と言えます。

 

Topix

 

そこで、今、日本の株式相場がどの局面にあるのかを見ると、恐怖指数が(米国の金融規制案、ギリシャの財政問題、トヨタの大規模リコールなどで)2月中旬に付けた1つのピークから下落する途中にあり、予想外のことが起こらなければそのまま下落し続ける可能性は高い。言い換えれば、日本株の上昇はまだ終わったいない公算が大きい。

 

続いて、NY市場のS&P500種を見てみます。下記のチャートが示しているように、TOPIXの場合と同じく、恐怖指数の上限は0.55前後であり、その水準まで恐怖指数が上昇すれば、長期投資家にとって株式購入の好機となり、昨年の2月末/3月初頭はまさにこういった時期でした。では、これからNY市場はどうなるのか、恐怖指数の下落ペースと現在水準を見ると、今回の上昇(1月下旬から始まった急落に対する反騰)はそろそろ一段落する可能性が高い。この期間の短い上昇が単なる反騰から上昇トレンドへ繋がっていくには、ファンダメンタルズによる後押しが必要であり、そのような後押しがあれば恐怖指数がさらに下落し、一段の株高が期待できます。

 

Sp500

 

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2010年3月 3日 (水)

人民元切り上げの可能性を考える: 呂 新一

最近、米国内で人民元の切り上げを求める声が高くなりました。

 

まず、シューマー(民主)とグラマ(共和)ら十数人の上院議員がロック商務長官に、中国の人民元相場操作による「米産業界への打撃」について、調査を求める書簡を送付しました。それに、バーナンキFRB議長が上院銀行委員会での証言で、「人民元のレートがさらに柔軟になることを望んでいる」と明言しました。

 

無論、今の米国にとって、中国に人民元の切り上げを求めることは得策です。

まず、米中折衝の結果、中国が人民元の切り上げに応じれば、景気回復する過程で拡大する内需が中国にとっての外需に転化することが防げ、米国内の市場、ひいては雇用の確保に有利と見られます。

そして、ドルが人民元に対して安くなれば、米国製品の中国輸出に弾みがつき、このことも米国内の雇用確保に有利に働きます。

さらに、たとえ、中国が人民元レート問題で一切譲歩しなくても、人民元レート問題が強力な武器であることに変わりがなく、米政府がそれを使って、中国に米企業の進出に便宜を図ってもらうよう求めることができます。

 

他方、中国にとって、人民元の切り上げは簡単にのめるものではありません。

 

無論、人民元高は中国にとってもメリットがあります。例えば、人民元高を容認すれば、ドル・人民元レートの抑制のため行ってきた市場からの大規模なドル買い入れ(同時に市場への巨額な人民元放出)の必要性がなくなり、資産バブルおよびインフレの制御はし易くなります。

そして、人民元高は内需拡大のきっかけとなる可能性があります。人民元が高くなれば、サービス業が製造・輸出業より儲かり易いことも考えられ、ヒト、モノ、資金の内需シフトが起こります。

 

人民元切り上げのデメリットとしては、まず、輸出への打撃でしょう。世界経済がまだ完全に回復しておらず、外需が弱い現在、当局が人民元の切り上げに踏み切れば、輸出への打撃は避けられません。人民元高による輸出代金の目減りは、規模が小さく生産性が低い労働集約型企業への打撃は最も深刻なものになると予想されるが、こういった労働集約型企業が雇用維持に果たしている役割を考えれば、雇用市場も大きな打撃を受けることになります。

そして、今、中国で平均賃金が急速に上昇しています。その賃金上昇に人民元切り上げを加えれば、外資系企業にとって中国の労働コストがさらに上がることになります。外資が中国の労働コスト高騰を恐れ、中国進出を躊躇すれば、中国経済の活力が削がれます。

 

このように、人民元高は中国にとって、メリットとデメリットの両方があります。そこで、重要なポイントは、メリットが現れるのに時間はかかる(産業の転換に時間がかかり、内需拡大のカギとなる貧富の差を縮めることにも時間がかかる)が、デメリットが直ぐ現れると予想されることです。こうして見ると、中国政府は容易に人民元切り上げの決心が付けません。

 

 さらに、ここにきて、ドル/ユーロの為替レート変化も人民元の切り上げを難しくしています。

というのは、最近、ドルがその最も強力な競争相手で、第2の通貨であるユーロに対して強くなってきました。昨年11月当時1ユーロ=1.51ドル前後でしたが、今は1ユーロ=1.36ドル前後でドルが10%ほど強くなりました。このようにドルが強くなったことは、中国の政策当局にとって、人民元の対ドル切り上げを難くしたことを意味しています。と言うのは、ドルがユーロに対し強くなったことで、ドル連動をしている人民元もユーロに対し強くなり、その上、人民元がさらにドルに対し強くなれば、中国の対ユーロ圏輸出がますます難しくなります。

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2010年2月26日 (金)

ドル円、ユーロ円、夕暮れ需給

「ドル円、ユーロ円、夕暮れ需給」

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2010年2月24日 (水)

米株の調整が長引く可能性: 呂 新一

1月21日、ホワイトハウスより金融規制改革案が提案されたことを皮切りに、米株が調整過程に入りまして、S&P500種を見ると、2月5日のザラ場で1,046ポイントまで下落、119日の1,150ポイントからの調整が9%を超えました。最も、ここ2週間、株価が回復する過程にある(昨日、S&P500種が1,108ポイントで引けた)が、依然として予断が許されません。

 

筆者の経験によれば、ゴールドマン・サックス証券が米株式市場の1つ優れたインディケーターで、そのゴールドマン・サックス証券の株価は昨年10月にリーマン・ショック後の戻り高値を付けたあと、ずるずると下がり、今でも昨年10月の水準を18%ほど下回ったままです(下記チャート参照、ブルーラインはGSで、レッドラインはS&P500種)。振り返って見ると、筆者は米株が今回の調整を迎える前の1月13日に、本欄において、米株上値可能性」をタイトルとするブログを書きましたが、ゴールドマン・サックスの株価が下落していたことも当時の1つの根拠でした。

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ファンダメンタルズを見ても、米株がここで直ぐに新たなブルマーケットに突入する可能性が低いように思われます。例えば、昨年第4四半期のGDP速報値が、前期比年率5.7%の増加と事前予想の4.7%増を上回ったが、最大の押し上げ要因は在庫削減動きの鈍化で、それによるGDPへの寄与度が3.4%にもなりました。無論、企業が年末よりも早い時期に在庫削減を進めた理由は減価償却を奨励する税制にあり、その税制の効果が一巡すると、GDPを押し上げる効果も薄れていきます。

 

さらに、リーマン・ショック後、日米の株式市場よりいち早く回復を見せていた新興国株価指数(モルガン・スタンレー証券作成)も、ここに来てもたつきし始め(下記チャート参照)、今回世界的な株価調整が長引く可能性を示唆しています。

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最後に、中国を見てみます。中国は昨年8.7%のGDP成長を達成、世界経済成長の半分を占めました。ただ、8.7%の成長の内、最終消費、投資、貿易の寄与度はそれぞれ、4.6%、8.0%、-3.9%で、GDPの投資依存は異様で突出していました。このような成長パターンは、国家財政、投資効率、又は環境への影響など様々な点から見ると持続し難いと思われます。言い換えれば、今年の中国経済は昨年ほど(表面上の)強さを見せない公算が大きい。

 

その可能性を警戒しているように、中国上海総合株価指数が再び3,000ポイントを下回りました(下記チャート参照)。

Shanghai_composit_6m

 

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2010年2月10日 (水)

米国の財政赤字、中国の不動産バブルとドル円: 呂 新一

ギリシャの例が代表しているように、先進諸国が景気刺激のためにこぞって財政の大盤振るまいをした結果、巨額の財政赤字が新たな問題となり、景気の先行きに黒い陰を投げかけています。

 

米国もその例外ではありません。米財務省の発表によると、2009年度の財政赤字が約14,000億ドルと、史上初めて1兆ドルの大台に乗せ、また、GDP対比では10.0%と、1945年度以来の最悪な水準になりました。そして、今年度(2010年度)について言うと、ホワイトハウスの行政管理予算局(OME)は財政赤字が16,000億ドルまで膨らみ、GDP10.6%になろうと予測しています。

 

巨額の財政赤字を補填するため巨額の国債が発行されます。今年の発行予定額は25,500億ドル(日本の2010年度予算案での国債発行額は443,000億円で約4,950億ドル)です。普通では、これほどの発行額を消化する際、市場金利は上昇します。しかし、今のアメリカは住宅価格が依然下げ続き、雇用も一向に改善しないため、物価が高まりそうな状況になく、その結果、市場金利の上昇は考えにくい。

 

財政赤字による市場金利への影響が軽微であれば、それが理由でドル/円が上昇可能性も殆どないと見られます。

 

一方、米国債の最大の海外購入者である中国は、最近、米国およびその他の先進諸国から頻繁に人民元切り上げ圧力を受けています。筆者の見る限り、中国政府がそうした圧力を受けて人民元を本格的に切り上げる可能性は殆どありません(無論、政治ショーのため、小幅な切り上げは考えられます)。その理由について、筆者が116日の本欄「中国政府が人民元を切り上げしない理由」に書きましたが、ここでは、中国の物価水準との関連で以下のような補足説明をします。

 

中国の物価水準に詳しい方がご存じのように、中国では普通の生活用品の価格と、奢侈品・住宅の価格が同じ社会に併存しているモノの値段とは考えられないほどかけ離れています。即ち、普通の生活用品の価格は発展途上国の価格であるが、奢侈品・住宅の価格は先進国の価格となっています。言い換えれば、普通の生活用品の価格から見ると、(富裕層だけにとって)人民元切り上げの余地があるが、奢侈品・住宅の価格から見ると、(普通の庶民にとって)人民元切り上げの余地は全くありません。

 

このような状況下で、もし、中国政府が本格的に人民元を切り上げすると、何が起こるかというと、普通の庶民にとって、生活コストが上昇してしまい、一層の生活苦に陥り、勤め先が輸出関連であれば職の安全も危うくなります。他方、富裕層にとって、今まで高級不動産を買いあさっていた海外資金が人民元高をきっかけに利益確定に動き中国から撤退してしまえば、不動産価格が下落し、自分たちの資産が目減りすることになります。

 

人民元が大幅高になれば、果たした上述したことが起こるかどうかは定かではありません。しかし、中国政府がこのように考えて、憂慮し、なかなか本格的に人民元の切り上げに動けないことは十分に考えられます。

 

中国が人民元の切り上げに動かなければ、中国を対米迂回輸出の基地に使っている日本の通貨である―日本円に対するドル安・円高圧力も弱まらないと思われます。

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