米国経済

2009年12月16日 (水)

米国株が高値を維持している間は日本株にチャンス: 呂 新一

米国株は3月上旬に付けたボトムから大幅に上昇しまして、S&P500種で言えば上昇率は約71%に達しました。では、これからも今までの調子で上昇し続けるのかと言うと、そうではない可能性が大きい。

 

と言うのは、今までの株価上昇は、ファンダメンタルズが改善したほか、FRBの緩和策に起因するドル安も大きな要因であったと言えます。しかし、ここにきて、ドル安を背景にした資源・エネルギー価格高騰がインフレ懸念をもたらし、緩和策の継続に疑念が広がり、その影響で、長期金利が上がり始め、ドルも反発の兆しを見せています(ドル・インデックスは11月末の74.2から現在の76.35まで反発してきました)。

 

また、ここ数日、バンク・オブ・アメリカに続き、シティグループとウェルズ・ファーゴも政府に公的資金返済計画を発表し、大手銀行が揃って非常事態を脱したようですが、一方では、どの銀行も個人と中小企業への融資に消極的で、貸出総額の前年比伸び率がマイナスのままとなっています(下記チャート参照)。事実、中小企業の業界団体であるNFIBが今月発表した調査結果によれば、中小企業の景況感は前月よりもさらに9ポイント低下し、融資を受ける難しさも3カ月前に比べ殆ど改善していません。この結果は非常に深刻なもので、中小企業の就業者は全体の雇用の半分を占めているだけに、このままでは、消費の回復、そして一本調子の株価上昇が難しいように思われます。

 

Photo

 

このことは、大手投資銀行であるゴールドマンの株価動きにも反映されているようです。下記のチャートはゴールドマンの株価とS&P500種の過去2年間の推移を並べたものGSが赤い線、S&P500種は蝋燭足)ですが、チャートから、ゴールドマンの株価がS&P500種を約数カ月ほど先行し、そのゴールドマンの株価が9月末ごろに既にピークを打ったことが見てとれます。言い換えれば、米株価が今までの上昇勢いを維持できない可能性が大きい。

 

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ただ、日本株について言うと、米株価が3月以来の上昇勢いを維持できなくても、現行の高値圏に滞在さえできれば、上値余地はあると思われます。というのは、日本株が米株に比べ大きく出遅れている上、米国でインフレ懸念が台頭し長期金利が上昇すれば、それに連れられドル安が是正され、そうなれば、日本株に見直し買いが入る可能性は大きいからです。

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2009年11月18日 (水)

安い人民元で米国の内需が中国の外需に: 呂 新一

先週の本欄において、我々は、いま氾濫しているチープマネーと資産価格との関係について、アメリカではチープマネー(ドル安)が株価、商品価格を押し上げ、1つのバブルを作り出している可能性、そして、中国ではチープマネーが不動産バブルを演出し、このままいけば、不動産価格の大規模な調整と銀行の不良債権急増が避けられないことを述べました。

 

この米中両国でチープマネーが氾濫していることは、両国政府が意図して作り出した現象であり、両方とも時間稼ぎのためと見られます。

 

米国政府は昨年巨額の国債を発行し、それをFRBに換金してもらって得た資金で金融機関から不良資産を買い取り、何とか金融危機を凌ぎまして、今は、FHA ( Federal Housing Administration)を通じて住宅市場に洪水のようなローン資金を投入すると減税措置により、何とか住宅価格の大幅続落を防いでいます(数年前では、全体の住宅ローンに占めるFHAローンの比率が5%前後でしたが、今では20%前後占めるようになりました)。

 

FRBによる低金利政策も含め、米国政府は大量のチープマネーを供給することで、金融システムと国内消費を維持しています。その目的は何とか時間稼ぎをして、新しい経済構造が出来上がるまで繋げていくことと思われます。

 

無論、米政府のそのやり方の必然的な結果として、ドル安が止まらなくなります。ただ、今のところ、ドル安は米国にとってまだ深刻な脅威になりません。というのは、バブル崩壊によって生産能力が過剰になり、そして住宅価格も大幅に下落したため、潜在的なデフレ圧力が強いと見られます。そのような状況下でのドル安は米国政府にとって脅威ではなく、むしろ、この不況期で海外商品の流入を防ぐ効果があると見られます。

 

そのような状況下で、中国政府が未だに維持している人民元のドルペッグ政策は米国にとって頭痛のタネとなります。ドルは殆どの主要通貨に対し安くなりましたが、唯一中国人民元に対して安くなっていません。そして、中国が世界の生産工場と言われているだけに、安い中国製品が今でもとんとん米国内に流れ込んでいます。言い換えれば、人民元がドルペッグしている結果、米国が全力を尽くし折角維持している内需が国内に止まらず、中国の外需に化けています。

 

一方、中国政府から見ると、米国自身が今回の金融危機を招き、中国にとってはありがたい迷惑です。いずれ、自国経済発展の柱を内需にシフトしなければならないことは分かっていますが、国民に安心して消費できるためにやらなければならないことが山ほどあり、そう簡単にいきません。そこで、最も現実的な方法は、取りあえずチープマネーをとんとん発行し公共投資を増やして仮の内需で輸出減を補い、そのうちにアメリカの景気が持ち直せば再び対米輸出を増やすことと思われます。無論、この戦略がうまくいくには人民元の米ドルペッグを維持しなければなりません。

 

というのは、日本と違って、中国製品がアメリカで売れるのはブランド力というよりは単に値段の安さです。中国政府もその点がよく分かっているため、人民元の米ドルペッグ制を変更できずにいます。

 

無論、より長期的な観点から見れば、世界の最大な債務国である米国が自国通貨の長期下落をそのまま放置すると、いずれ、資源・エネルギー価格の暴騰が起こり、又は海外資本が離反するなど、ツケを払うことになります。また、中国がいたずらに人民元の切り上げを先送りすると、将来の経済構造転換(産業構造の高度化、内需に軸足をシフトするなど)がさらに難しくなると思われます。

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2009年11月11日 (水)

米中両国のチープマネーの後: 呂 新一

7日にスコットランドのセントアンドルーズで開催されたG20で、関係各国が景気刺激策を維持していくことを合意したと伝えられた。

 

このような結論になるのはある程度予想されたものです。というのは、今の世界経済の2大主力であるアメリカと中国を見ると、アメリカは、つい先日発表された10月の失業率が10.2%という26年半ぶりの高水準まで上昇しまして、景気刺激策からの脱却を議論できる状況にありません。一方の中国は、8月に緩和的な金融政策からの脱却を試みたが、株価急落という市場の反撃を受け、その後、景気刺激策の維持が不動のものとなりました。

 

無論、この世界には、イスラエル銀行が8月24日政策金利を0.25%引き上げ、オーストラリア準備銀行が10月7日、そして11月3日連続2回で政策金利を合計して0.50%引き上げ、ノルウェー中央銀行が10 29 日政策金利を0.25%引き上げたなど、景気刺激策からの脱却を進む動きもありますが、大きな流れにはまだなっていません。

 

現行のアメリカの超低金利が長期化する見通しがより鮮明になったことで、投資家はさらに安心してドルを売ることができ、その証として、昨日、ドルインデックスは一時、08年8月以来の低い水準まで落ちました(下記チャート参照)。また、今までのパターンからみると、ドル安(チープマネー)が株価を押し上げ、商品市場などを含め、1つのバブルを作り出す可能性があります。

 

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ただ、世界の基軸通貨であるドルが周りに何の悪影響も与えず長期下落していくことは考えにくく、仮にその途中で何らかの混乱が起こっていれば、既に実体経済の回復を遥かに先行している株価が大きく躓くことは十分に考えられます。また、逆に何らかの理由でドルが下落傾向から回復するトレンドに転じる際も、米株価は大幅調整する可能性があります。

 

他方、最近の米国の対中経済戦略を見ると、自国の苦境を反映しているためか、ムチの方は多くなったと思われます。今のオバマ氏が、トウ小平氏の弟子にでもなったように、「白猫であれ、黒猫であれ、ネズミを取っていれば良い猫である」の教えに従い、自国市場を守るために自由貿易の原則を捨て、無闇に色んな中国製品に高額の反ダンピング関税を課すことにしました。さらに、中国に対しては、人民元の切り上げも求める計画であると伝えられています。

 

こうして見ると、今の米中間の貿易摩擦が前世紀80年代後半の日米貿易摩擦に共通点があります。当時の日本は、結局、円高の圧力下で内需に活路を求めることになり、不動産バブルを引き起こしてしまいました。そして、今の中国は、輸出主導の経済構造を是正する目的と8%の成長を確保するとの大義名分下で不動産バブルを作り出し、それを膨らませています。

 

中国の不動産バブルの進行状況を示す1つの例として、浙江省瑞安県のケースを見てみます。瑞安県の中心都市である瑞安市は未だに映画館が1つもない地味な町ですが、ここにきて不動産投資(投機)熱が頓に高まってきました。まず、500メートルにもならない東の大通りに今年になってから70件前後の不動産仲介業者が現れ、その多くが客引きするために、毎日、無料のランチを提供しています。そして、地元にある銀行支店は預金総額の90%にも相当する大金を不動産融資に回し、今、不動産投資に充てられた資金が日本円で4,500億円を超えたと言われています。さらに、田舎のおばさん達も不動産投機に手を出し、全員参加型で誰もが住宅価格が上昇することこそあれ、下落することがあり得ないと考えて投機に走った結果、新築マンションはスケルトン(内装する前)のままで、廊下、エレベーターホールなども計算に入れて、平均して1平方メートルが2-3万元(日本円で約30-40万円)の高値となっています。

 

無論、このような不動産バブルが長期に亘って持続することは考えられません。チープマネーが不動産バブルを演出していますが、そのチープマネーの勢いが少しでも衰えると、中国不動産市場の大規模な調整、そして銀行の不良債権の急増が避けられません。

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2009年11月 4日 (水)

景気はまだまだ大丈夫とは言えません: 呂 新一

先週の本欄において、筆者は「目先の楽観を通り越して」とのタイトルで、中国、そしてアメリカの国内消費の先行きがあまり楽観できない理由を説明しました。その後、アメリカの10月消費者信頼感指数が47.7と、9月の53.4から大幅に低下したと発表されました。筆者の憂慮が的中しました。

 

消費者が元気になれない最大の理由はやはり雇用情勢が一向に改善しないことにあると思われます。事実、コンファレンス・ボードが行った調査によれば、雇用について「就職困難」との回答が9月の47.0から49.6に上昇しました。企業は売上が増えない現在の状況下で収益を拡大しようとすれば、おのずと人件費削減に走り、その結果、雇用の拡大は暫く絶望的と思われます。

 

さらに悪いことに、近いうち、政府による公務員削減の動きが顕在化し、雇用情勢が一層悪化する可能性はあります。というのは、今のところ、カリフォルニア州を始め、多くの地方政府はワークシェアリングあるいは強制無給休暇を増やすとの方法で支出を削減していますが、そのうち、税収の落ち込みによりさらなるコストダウンを迫られると、大規模な人員削減に踏み切る恐れがあります。アメリカの国家・地方公務員の合計人数が製造業の1.8倍にも達しているだけに、その職の安全性は消費、社会安定、そしてアメリカ経済にとって非常に重要であることは言うまでもありません。

 

民間消費の回復が期待できないだけに、政府による刺激策が引き続き大事ということになります。それが、米上院民主党が8000ドルの初回住宅購入者向け税控除措置の延長を合意した背景と思われます。言い換えれば、今までのところ、景気回復が依然非常に脆弱です。

 

景気回復が脆弱であるにも関わらず、3月上旬から今までの間、米株は上昇基調を維持してきました。その理由は景気がある程度回復しているほか、金融機関を救うために政府・FRBが金融システムに投入した大量の資金が実体経済に向かう代わりに、株・国債・商品先物などに流入した可能性が考えられます。金融機関が融資姿勢を厳しくした結果、Wall Streetが株高に喜び、Main Street(企業、一般大衆)が借金難に陥っている構図が鮮明になっています。

 

ただ、言われている景気回復が意外に脆弱であることが判明したため、米株式相場が今年3月以来の最大の試練を迎えています。下記チャートは恐怖指数との別名を持つVIX指数の推移で、3月上旬以こう低下または低位安定を保ってきましたが、ここ2週間急騰を見せています。このことは、言うまでもなく、株式市場が3月以来の大波に晒されていることを示しています。

 

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中国について言うと、PMIは改善しているが、それよりも熱くて手付けられないほどになっているのが不動産市場です。今日伝えられたニュースによると、過去7カ月で、深圳市の新築住宅の平均価格が97%上昇しました。また、上海では、国有企業が一等地で高級住宅の販売に乗り出し、その中で最も豪華なものは15億日本円になると言われています。

 

中国の不動産価格急騰が中央政府の日本円にして57兆円にものぼる景気刺激策に支えられています。今の中国では、各大都市の至る所で、国有企業による土地の高値買収が盛んに行われています。眼玉が出るほど高い値段で土地を買収する目的はただ1つで、さらに高い値段で売ることです。景気刺激・銀行の融資加速 ⇒ 資金が国有企業へ流入 ⇒ 土地転がし・不動産価格急騰この構図は今のところ中国経済を支えているように見えるが、もはやソフトランディングできる段階を通り越したと思われ、本来は憂慮すべき事態ですが、止める力は見当たりません。

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2009年10月28日 (水)

目先の楽観を通り越して: 呂 新一

景気に持ち直しの兆しが出てきたことから、ドイツ、フランスなどは総合対策からの出口戦略を考えているようです。そして、ここにきて、米国も利上げが早まるとの観測で国債が売られています。

 

しかし、実体は多分これからずっと楽観していられるほど好転していない可能性が大きい。

 

今回の世界的な金融危機の後、一足先に出口戦略を考えて実行しようとしていたのは中国政府でした。先々月5日、中国の中央銀行である人民銀行が現行の金融緩和策を微調整する可能性を仄めかしたことをきっかけに、中国株が3日間連続売られました。それを見て、中国政府・人民銀行は慌てて現行の金融緩和・積極財政路線の堅持を宣言しました。

 

確かにGDP成長率だけを見ると、中国経済は順調すぎると言えるほど回復しています。事実、第1四半期のGDP成長率が6.1%、第2四半期が7.9%、第3四半期が8.9%で、回復するぶりは驚異的です。そして、多くの大型プロジェクトがいま進行中であることを考えれば、第4四半期のGDP成長率はさらに高くなると予想されます。ただ、一方、株価が景気を先行するとの観点からみると、矛盾するところもあると感じられます。というのは、中国上海総合株価指数が8月初めに3,478ポイントの高値を付けてからは、未だにその高値を抜けずにいます(下記チャート参照)。即ち、株式市場はまだ景気の先行きに不安を感じているようです。

 

Shanghai_composit_6m

 

株式市場が抱いているその不安はそれなりの理由があります。というのは、現在の景気回復は主に政府主導の社会固定資本投資によって引っ張られたもので、民間・消費主導とは言えません。GDPの内訳をみると、投資と輸出が75%も占め、消費は35%しかありません。また、そうなった理由を見ると、これまでの3四半期において、政府によるインフレ建設投資が前年同期比52%も増え、特に鉄道建設投資は87%も増えました。言い換えれば、中国の景気回復は政府が作り出した回復で、自律的、持続可能な回復とは程遠い。

 

また、最近、政府が発表したGDPと違う風景を見せている調査結果が発表されています。その二、三を見てみましょう。

 

・北京市では、昨年夏の大卒(中国では夏に卒業する)の半年後就職率は88%で、一昨年の93%より5%低下しました。そして、卒業した半年後の平均月給は2,746元(日本円で約3万円)で、一昨年の3,080元より8.9%(!)も少ない。

 

10大都市で3,295人を対象にした調査結果によれば、20081年で、収入が全く増えなかった家庭は全体の79.6%も占め、そのうちの27%は収入が減りました。そして、今年前半の5カ月で収入が全く増えなかった家庭は全体の85.4%まで上昇し、そのうちの31%は収入が減りました。言い換えれば、中国経済が7%前後の成長をしている間に、8割超の都市住民は収入が全く増えず、3割弱の都市住民がより貧乏になりました。

 

このような状態では、民間消費の盛り上がりはあまり期待できません。

 

中国はこの状況ですが、米国を見てもそれほど状況は変わらないと思われます。決算発表で米企業の収益回復ぶりが目覚ましいが、その最大な原動力が給与削減などのリストラであることを考えると、米国の消費回復もまだまだ先であると思わざるを得ません。

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2009年10月 7日 (水)

米株価の今後について考える: 呂 新一

今回の株価反発は既に数カ月という長い時間を経ち、そしてボトムからの上昇率も6割弱(S&P500種)に達しまして、歴史に残る記録となりました。

 

Spx

 

では、これから株価が反発し続けるのか、或いは今年または来年中に失速し2番底を試しに行くのか、皆が関心のある所でしょう。

 

言うまでもなく、最終的に株価の行方を決めるのはファンダメンタルズです。今のところ、表面的にファンダメンタルズも株価に遜色なく改善してきているように見えますが、政府による一時的な刺激策の役割が余りにも大きいため、持続力がそれほどないのではと疑われます。

 

これまでの間、政府が車の買い替えに補助金を出し、一次住宅所得者には8,000ドルにものぼる減税を実施しきました。そして、FRBが金融機関から総額12500億ドルの不動産担保証券購入計画を実施しています。ただ、時間の経過と同時にこういった刺激策が次々に終了することになり(車購入補助策は既に終了しました)、そうなると、景気の本来の弱さが戻ってくる可能性が大きい。

 

刺激策が終了しても、景気が引き続き順調に回復するには、米経済の7割を占める消費が拡大していく必要があります。しかし、それが非常に期待し辛いと思われます。その理由としては、まず、失業率が長期に亘り高止まりする可能性が高いことです。9月の失業率が9.8%と報道されていますが、実際の失業率はそれより遥かに高いと思われます。仕事探しを諦めた人、そして、そもそも合法的な身分がなく、仕事をしていた時は雇用統計に入らず、今、仕事についていなくても失業者統計に入らない人は沢山います。言い換えれば、雇用の実態が9.8%の高い失業率が示したよりも悲惨ということです。

 

そして、これまでの間、給料収入のほか、株式投資および住宅価格上昇からの利得も米国民の消費を支えてきました。しかし、昨年から情勢が一変しました。今では、株価がある程度戻ったものの、まだリーマン・ショック前のピークの75%にしかならず(S&P500種)、住宅価格に至っては一部で下げ止まりの兆候が出ているものの、高値回復することはもう無理と思われます。

 

このように、雇用情勢と保有資産の価格低下が消費の足を引っ張っていますが、消費を抑制するもう1つの要因は、金融危機を経験しさらに環境保護意識が高まったことで、過剰消費を意識的に避けるようになった米国民が増えてきたと見られることです。事実、昨年のリーマン・ショック以後、米国民の貯蓄率が上昇傾向にあります(下記チャート参照)。

 

Personal_saving_rate

 

このように、米国内の消費ひいては国内市場に期待できないためか、米企業による新興国への投資が非常に盛んであります。S&P500種の構成企業では既に収益の過半が海外から得ている事実から見ると、今後、米企業の収益がますます海外市場、そしてドルの為替レートに依存するようになります。事実、下記のドルインデックス・チャートはドル安が株高の原動力になっていることを示しています。

 

Dollar_index

 

と言うのは、このチャートはドルインデックスが今年3月にピークを付けてから下落の一途を辿っていることを如実に示していますが、米株は3月にボトムを打ち反発し始まりました。

 

こうして見ると、米株の反発が今後も続いていくかどうかは、刺激策が切れた後(来年の春以降)、国内消費がどこまで景気を支えられるのかと、ドルがどこまで下落出来、そしてドルが下落しても長期金利が低位安定出来るかどうかにかかっていると思われます。無論、筆者は米国民の消費拡大意欲および混乱を起こさないドルの下落の2点とも疑問に感じています。

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2009年9月30日 (水)

中国の国慶節 と 株式相場: 呂 新一

今日は米国の株式マーケットについて書こうと思っていましたが、中国の国慶節(10月1日、明後日)が近づいているため、それについての報道が多くなり、触発され、やはり国慶節について書くことにしました。

 

というのは、今日、中国の各ネットニュースサイトが共に、国慶節当日に予定されたパレートに、名門理工系大学の清華大学の学生達が、「毛沢東思想万歳!」との巨大な看板を掲げてデモ行進することを報道しました。

 

下記の写真はそのリハーサル様子を映っています。

 

Photo

 

毛沢東思想は非常に豊富で多岐に渡り一言二言でサマリーすることはできないが、晩年の毛沢東氏はますます「階級闘争」の重要性を強調するようになり、「階級闘争」という概念は間違いなく毛沢東思想の中心であると言えます。

 

筆者が小学生の時、共産党中央が毛沢東の最新指示を全国民に伝える際、必ずすべての学級が授業を中断し、全員が大講堂に集められ、1時間にしよ、2時間にして、ラジオから毛沢東の言葉が伝えられるまでじっと待つということになっていました。伝えられた毛沢東氏の最新指示は往々にして、一言か二言のようなものでした。

 

その一言か二言かの最高・最新指示(当時はそう形容されていました)のうち、筆者がどうしても理解できず、そのためか今も鮮明に覚えているのは、次の2つです。

 

「八億の人がいれば、階級闘争をしなければならないのではないか」

「階級闘争をしっかりやれば、(経済建設など)すべてがうまくいく」

 

毛沢東の指導下で、中国全国で階級闘争の渦が巻いていました。すべての中国人が成人であれば、14種類に分けられ、そのうち9種類が人民(イコール正義)側、あとの5種類が売国賊、邪魔者或いはゴミカスとされる敵(悪)側とされていました。一旦敵側の”人間”にされると、もう、一生、人間として扱われることはありません。

 

新中国が建国当初、田舎で階級(敵と味方)を分ける際、金持ちであれば敵ということでした。そして、余りにも貧乏な村で金持ちがいないと、一人当たりの土地面積を計算して、多い家族が自動的に敵になります。そこで、このようなこともありました。ある家で御爺さんが病気でなくなった際、持っていた土地を二人の息子に均等に分けましたが、長男に6人の子供がいて、次男に子供がいませんでした。そこで間もなく共産党がやってきて、一人当たりの土地面積を計算した結果、自動的に、長男一家が味方にされ、次男夫婦が敵で制裁を受ける対象にされました。

 

毛沢東が晩年になった際は、建国からも二十数年が経ち、革命当初”敵”というレッテルが貼られた人は死亡で数が少なくなりました。そこで、田舎では毛沢東氏の階級闘争の思想を実践するため、敵の子孫を敵と定義しました。無論、その新しい敵は全員建国後に生まれ新中国で教育を受けた人達です。筆者が10代の時に2年半ほど過ごした村では、ある日、お父さんが革命前でちょうどした金持ちだった男が夜逃げしました。それが、借金返済できないための夜逃げではなく、革命の対象、階級闘争の対象に指定され、間もなく拘束される噂を聞いたための逃走でした。

 

毛沢東氏がなくなって33年が経った今年の国慶節に「毛沢東思想万歳」の看板が復活したが、思うにはその実践が非常に難しくなりました。というのは、革命当時の定義によれば、金持ちが革命・闘争の対象ですが、今の中国で超を付く金持ちの9割以上が高級幹部の子弟で、共産党が身内を闘争の対象にすることは考えられません。では、どうすれば良いのか、清華大学の学生達に聞いてみたくなりました。

 

今の中国では、ところにより地方政府も金持ちになりました。報道によれば、広州市番禹区が主な出資者で800万元(日本円で約1億600万円)を投じて造ったトイレ(!!)928日にマスコミに初公開され、そのトイレの壁に合計500gの金箔も貼られました。

 

下の2枚の写真はそれぞれ黄金トイレの外観と内部です。どうですか?

 

Outlookofthetoilet

 

Insidethetoelet

 

この黄金トイレのオーナーである番禹区政府が革命の対象になるかどうかは清華大学の学生達の判断に任せますが、筆者がここで強調したいのは、このような億ションならぬ億トイレが建設されたことが中国経済、或いは少なくとも中国の官僚たちの発想がバブル状態になっていることの症状です。そのようなバブル化している症状は探せば幾らでもありますが、問題はそのバブルがいつ崩壊するのか、又、中国国民にとってより重要なことは中国政府がどこまで現状を認識し、対応する政策手段を考えたのかです。

 

文書が長くなりました、最後に米国経済と株価について簡単に触れて置きます(詳しくは先週の本欄である「当局とマーケット」を参照にして頂きます)。

 

まず、景気は回復していないことを確認しましょう。先週末に開かれたG20では景気について前より大分楽観的になりましたが、しかし、決して景気は回復していません。というのは、住宅を失った人達は棲家を取り戻していないし、失業した人達は再就職できたわけでもなく、給料がカットされた人達が前の所得に戻っていません。悪くなったものが悪いままで、このような状態はとても“景気回復”とは言えません。

 

我々が中国経済を論じる際、輸出が依然不振であることを中国の景気回復が難しい理由の1つに挙げることに慣れているが、中国の輸出不振はそのまま先進諸国の消費がまだ戻っていない証明でもあります。

 

このような状況が続くようであれば、早かれ遅かれ、株価は2番底を付けに行くと思われます。

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2009年9月23日 (水)

当局とマーケット: 呂 新一

金融市場において、明らかに緊急モードが過去のものとなり、当局が出口戦略を検討し始めています。

 

事実、先週、バーナンキ米FRB議長は初めて公式に“リセッションは終了した可能性がある”と発言しました。そして、昨日は、今週開催されるFOMC会合において“出口戦略が検討される”との観測を受け、ドル買いが優勢になっていました。また、中国の温家宝首相は10日、大連市で開かれた国際経済フォーラムで、今年の目標である実質GDPの8%成長に自信を示しました。

 

一方、目を金融市場に転じると、波乱を示唆する症候は幾つかも現れています。

 

まず、下記のチャートはジャンクボンド・ファンドの過去2年半ほどのバリュー推移ですが、楽観ムードが広がれば、皆が高いリターンが欲しがり、ジャンクボンド(別名ハイイールドボンド)は買われますが、警戒感が高まれば、ジャンクボンドは売られ値崩れします。チャートから昨年9月リーマン・ショックの直後、ジャンクボンドが崩落したことが見て取れます。ところで、今は、ジャンクボンドの値段はほぼリーマン・ショック前のレベルまで戻り、貪欲さが再び剥き出しになり、楽観ムードが危険なレベルまで広がっていることが分かります。

 

High_yield_bond

 

また、別名「恐怖指数」であるVIX指数は、ここにきて、再び底値まで低下しました(下記チャート参照)。「恐怖指数」が低いということは、大方の投資家が近いうちに株価が急激に動き出すとは予想していないことを示しています。言い換えれば、仮に株価に大きな変化が訪れると、楽観ムードに浸っている多くの投資家はどう対処すれば分からなくなることは十分に予想されます。

 

Vix

 

目をさらに中国に転じると、当局の経済成長への自信とは裏腹に、株価の上値が重くなっています。下記のチャートは中国上海総合株価指数のここ6カ月の推移であるが、8月初頭に下落した後、3,000ポイント超えがむずかしくなりました。建国60周年(孔子「六十而耳順」)という盛大な祝典を前に、株価に祝賀ムードが感じられないのは不思議なことで、警戒する必要はあります。

 

Shanghai_composit_6m

 

最後に日本について言うと、内閣府が今月8日発表した8月の景気ウオッチャー調査によれば、2-3カ月先の先行き判断指数が7月以来、2カ月連続の下落となりました。過去の経験から言うと、日経平均と景気ウオッチャー先行き判断指数との相関が高く、先行き判断指数が悪化すれば、日経平均の上値も重たくなります。

 

要するに、政策当局の判断とは別に、近いうち、株式市場が違うシグナルを出す可能性は充分にあります。

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2009年8月26日 (水)

9月以降米株調整の可能性: 呂 新一

米株は依然強気ムードに支配されています。今月上旬当たり調整する局面が見られましたが、すぐさま反騰し始め、さらに上進しました。このような現象は殆どの参加者が投資リターンを目指し、全力投球していることを意味し、同時に、調整らしい調整をしていないため、今進行中の上昇が脆弱である可能性を示唆しています。

 

米景気の先行きにとって、住宅市場は依然1つ重要なファターであるに変わりがありません。その住宅市場について言うと、抵当銀行協会(MBA)の調査によれば、今年第2四半期の住宅ローン延滞および差し押さえ件数はローン全体の13.16%(季節調整前)を占め、過去最高を記録しました。そして、プライム固定金利ローンの延滞率が第1四半期の6.06%から6.41%まで、差し押さえ率が第1四半期の2.496%から3%まで上昇しました。一年前では、プライム固定金利ローンの差し押さえは全体の五分の一であったが、今は差し押さえ全体件数の三分の一まで占めるようになりました。このようなプライム固定金利ローン返済状況の悪化は、今まで余裕があると考えられていた家庭も資金繰りに悩んでいることを示し、注目すべき現象と言えます。

 

住宅市場の好転が期待しにくい理由の1つは雇用市場状況の悪さにあると思われます。労働省が7日発表した7月の雇用統計によると、失業率が9.4%で6月の9.5%より低くなったとは言え、非農業部門就業者数は6月より247,000人減り、給料受給者の減少はまだ止まっていません。そして、就業者数の減少と同時進行しているのは、給料の削減であります。言い換えれば、非農業部門就業者の総所得が就業者数の減少を上回るペースで進んでいます。

 

このような状況はそう簡単に変わらないと思われます。事実、Conference Board(全米産業審議会)が7月に発表した100社前後の大企業CEO(最高経営責任者)への調査結果によれば、これからの12カ月で収益の向上を見込んでいるCEOの56%が人件費などのコストカットがその最大な原動力と見ていることが分かります。言い換えれば、雇用、給料・福祉の改善はなかなか見込めず、そのため、住宅市場の本格的なボトムアウトも期待しづらいと思われます。

 

住宅市場がボトムアウトしなければ、銀行のバランスシート改善も時間がかかります。こういったことは、景気回復、そして株価に悪影響を与えかねません。

 

米株式市場は、1つの習性として、夏を過ぎて、9月、10月に入ると暴れる(大きく下落する)ことが多い。今年も、3月上旬から今までの間、相場上昇が続けてきただけに、9月以降相場は暴れる(調整する)可能性が十分にあります。そのような下落相場を利用し高いリターンを得たい投資家にとっては、秋以降のボトムでの投資のため、キャッシュの一部をキープした方が良いと思われます。

 

米株価上昇が脆弱である可能性を示すもう1つの証拠はドルインデックスの動きです。というのは、3月上旬に株価がボトムアウトし反発してきた軌跡は、ドルインデックスが3月上旬から下落してきた軌跡(下記チャート参照)と一致しています。言い換えれば、米株価の上昇は、ドル下落の犠牲の上に立っています。

 

Dollar_index

過去1年のドルインデックス変動

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