米株、中国株の行方: 呂 新一
まず、米国経済を見ると、ここ10年の間に、2回も大きなバブルをやりました。1回はITバブルで、もう1回は住宅バブルです。このことは、もしバブルがなかったら、米国経済が一時的なものにせよ、世界を魅了する盛り上がり、或いは輝かしい未来への憧れも演出できなかったかも知れないことを示唆しています。
ただ、バブルのお陰で米経済が最高のパフォーマンスを演出できたとしても、その後始末が大変厳しいものです。今回の住宅バブル崩壊で言うと、その影響で米国民の生活水準が元に戻れなくなり、そして、失業率は10%前後の高い水準で徘徊しています。
そして、ここ20年ほどのデータを見ると、景気が後退期から回復期に入った後の雇用回復は、毎回、前回に比べペースがゆっくりなり、雇用の増加数も減ってきています。このことは、米経済の雇用創出能力が落ちてきたことを如実に反映していると思われます。このような構図が今後も続くなら、今の米景気回復が力弱いものに止まる可能性が高く、そして、長期的に見ると、米経済はその優位性を失うことになります。
日本経済は、失われた20年に突入しましたが、アメリカ経済も株価だけで見れば、失われた10年に突入しました。そして、ITバブル崩壊による株価下落と今回の住宅バブル崩壊、リーマン・ショックによる株価下落を比べると、S&P500を例にすれば、ITバブル崩壊当時は、ピーク(2000/03/13:1464.17)からボトム(2002/09/30:800.58)まで、約2年6カ月で45.3%下落し、今回の住宅バブル崩壊、リーマン・ショックでは、ピーク(2007/10/08:1561.8)からボトム(2009/03/02:683.38)まで、約1年5カ月で56.2 %下落しました。言うまでもなく、今回の方はマグニチュードが大きい。言い換えれば、今回の景気回復が2002年当時より道のりが長く険しいものになる可能性があります。当時は、FRBが実質のマイナス政策金利を長期間放置し、住宅バブルを作り出し、その資産効果で景気回復を図りましたが、今回は、同じような手が使えないと思われます。というのは、バブルが膨らんでいき、そして崩壊の繰り返しに翻弄され疲れてきた米国民が、今回もFRBがバブルの発生を黙認ないし助長していることを察知したら、今度こそ、全ての怒りをFRBに向かって爆発するかもしれません。米議会も、FRBの責任を追及すると思われます。
このように、米景気回復が弱いものに止まる可能性が高いため、昨年驚異的な回復ぶりを見せた米株は、今年はそれほど高いパフォーマンスを見せてくれないと思われます。
また、当面の米株価動きについていうと、筆者は5月12日付けの本欄「ギリシャの財政危機とこれからの株価」において、以下のように述べました。「NYダウは暫くの間、4月26日に付けた高値と5月7日に付けた安値の範囲内で動く可能性が高い。そのうち、新高値を付ければ上昇トレンド入りとなるが、それが出来なければ、5月7日の安値を下回る可能性が高くなり、2月の安値が新たな下値サポートとなろう」。今のところ、NYダウは依然4月26日に付けた高値と5月7日に付けた安値の範囲内で動いています(下記チャート参照)が、一言だけを付け加えるなら、株価が2月の安値を下回れば、近いうちに2番底を作るより、下落トレンド入りする可能性が高く、警戒した方が良いと思われます。
他方、中国株について言うと、筆者は4月28日付けの本欄「中国株 ― 高成長≠高収益」において、幾つかの理由を挙げた後、「今後の中国株を展望すると、我々はそれほど楽観的になれません」と述べました。その後、中国上海総合株価指数は2,907から2,594へと10.8%も下落しました。ただ、今まであまりに急激に下落してきたこと、そして、2,600は重要なチャート・ポイントであることを考えれば、暫くの間、反騰ムードが続く可能性があります(下記チャート参照)。そして、より長期的に見ると、中央政府の政策が景気刺激から住宅バブル抑制・物価抑制に転換したため、中国株がより政策に左右され、昨年以上にボラティリティの高い展開を見せると思われます。
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