中国の住宅市場 ―― 複雑怪奇な現状を映し出す鏡: 呂 新一
今週に入ってから、中国の不動産関連株が急落しています。月曜日(4月19日)に5%超下落し、火曜日(20日)も3.6%ほど下落しました。その背景は、中国政府が、最近、発表した一連の住宅価格抑制政策と思われます。
中国政府が発表した一連の政策の着眼点ははっきりしています。セカンド・ハウスの頭金比率を50%に引き上げ、サード・ハウスには住宅ローンを提供しないなど、投機手段になることの多いセカンド・ハウス、サード・ハウスの取得制限を中心に置いています。
ただ、中国の住宅市場現状は、今の中国社会の特殊性・複雑さの現れであり、中央政府の号令1つでバブルが鎮静化するとは考えにくい。以下は、中国住宅市場の特異性について、数点を挙げて見てみることにします。
一、中国政府と地方政府との矛盾
中央政府は国民の不満を解消するため、安定した住宅価格を目指していると見られます。一方、各地方政府にとって、占有している土地を高値で売却することは、財政収入増に繋がると同時にGDPの数字造りに役立ち、まさに一石二鳥です。そのため、多くの地方政府は色んな名目で土地開発し、土地の転がしに乗り出しています。
地方政府の土地転がしが民間住宅の強制取り壊しに繋がり、それゆえ、住民たちの反発も激しさが増してきています。
下記の写真は、広西チワン族自治区北海市の農民たちが政府の強制取り壊しに反発し、自分達はもう“死を覚悟した上で戦うつもりである”との意味で、棺を買って、「政府が法を犯しても構わないなら、我々もこの命は要らない」との横断幕を掲げた光景です。
仮に、今後、中央政府が発表した政策の効果で住宅価格が下がり、地方政府の財政が窮地に立たされることになれば、地方政府と中央政府との矛盾が先鋭化する可能性はあります。
二、幹部と普通の人との間の格差
報道によれば、汚職または管轄する企業、地域からの貢ぎで富をなし、数軒、ないし十数軒以上の住宅を持つ官僚は少なくありません。
また、最近、一部の中央官庁ならびに北京地方政府が、職員に市場価格の1/10〜1/8程度という破格な値段で住宅を支給していたことが暴露されました。
また、欲に限りがないとのことで、一部の地方では、経済的に余裕のない家庭を対象にした経済型住宅も内装を密かにグレードアップして公務員達に分けました。
このように、幹部、公務員が“住宅持ち”であることで、不動産バブルを抑制する1つ有力な手段である「固定資産税」徴収がいつ経っても始まりません。
三、金持ちとそうでない人を分ける溝
今の中国にはまだ差別意識が強く残っています。住宅市場においてもそれが見られます。例えば、豪邸を宣伝する広告に、堂々と「この豪邸はあなたがエリートになった証明である」と大きな字で書いてあります。
住宅価格が高騰し、普通の人はますます買えなくなったが、一方、このことは複数の住宅を保有している富裕層にとって単に富の増加を意味しています。
言い換えれば、住宅価格の高騰が、貧富の差を広げ、階級固定化に繋がりかねません。
四、農民と都市部住民を分離させる「ベルリンの壁」
都市部で平気で1平方メートルが2万元(日本円で約三十万円)もする住宅は、月当たりの収入が100元(日本円で約1,500円)程度の農民から見ると、とても買えるようものではありません。
この現状が続くと、中国の都市化、現代化プロセスはかなり遅いものになります。
五、投資手段が欠如していることの表れ
投資手段が欠けている中国で、不動産が絶好の投資対象になりました。
最近のある調査では、全国660の都市で、連続6ヶ月間、電気を使った痕跡がまったくない住宅が6,540万軒もあります。言い換えれば、6,540万の世帯が住めるほど膨大な数の住宅が単に投機のために購入された可能性が高い。
また、報道によれば、中央政府が住宅価格抑制政策を打ち出したことで、深圳市では、ある個人が投機のために購入した680軒の住宅を一気に売りに出しました。この例から見ると、今までの住宅投機熱は中途半端なものではありません。
六、経済成長と社会安定との矛盾
中国政府は、GDPの8%以上成長を至上命令としています。住宅価格がここまで高くなった1つの理由は、昨年の緩和的な金融政策と4兆人民元にのぼる財政刺激策と思われます。その意味では、先行き、万が一、住宅価格抑制政策が経済成長を妨げることになれば、中央政府が再び舵取りを修正する可能性もあります。
こうして見ると、中国の不動産バブルのソフトランディングが非常に難しい。
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