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2010年3月 3日 (水)

人民元切り上げの可能性を考える: 呂 新一

最近、米国内で人民元の切り上げを求める声が高くなりました。

 

まず、シューマー(民主)とグラマ(共和)ら十数人の上院議員がロック商務長官に、中国の人民元相場操作による「米産業界への打撃」について、調査を求める書簡を送付しました。それに、バーナンキFRB議長が上院銀行委員会での証言で、「人民元のレートがさらに柔軟になることを望んでいる」と明言しました。

 

無論、今の米国にとって、中国に人民元の切り上げを求めることは得策です。

まず、米中折衝の結果、中国が人民元の切り上げに応じれば、景気回復する過程で拡大する内需が中国にとっての外需に転化することが防げ、米国内の市場、ひいては雇用の確保に有利と見られます。

そして、ドルが人民元に対して安くなれば、米国製品の中国輸出に弾みがつき、このことも米国内の雇用確保に有利に働きます。

さらに、たとえ、中国が人民元レート問題で一切譲歩しなくても、人民元レート問題が強力な武器であることに変わりがなく、米政府がそれを使って、中国に米企業の進出に便宜を図ってもらうよう求めることができます。

 

他方、中国にとって、人民元の切り上げは簡単にのめるものではありません。

 

無論、人民元高は中国にとってもメリットがあります。例えば、人民元高を容認すれば、ドル・人民元レートの抑制のため行ってきた市場からの大規模なドル買い入れ(同時に市場への巨額な人民元放出)の必要性がなくなり、資産バブルおよびインフレの制御はし易くなります。

そして、人民元高は内需拡大のきっかけとなる可能性があります。人民元が高くなれば、サービス業が製造・輸出業より儲かり易いことも考えられ、ヒト、モノ、資金の内需シフトが起こります。

 

人民元切り上げのデメリットとしては、まず、輸出への打撃でしょう。世界経済がまだ完全に回復しておらず、外需が弱い現在、当局が人民元の切り上げに踏み切れば、輸出への打撃は避けられません。人民元高による輸出代金の目減りは、規模が小さく生産性が低い労働集約型企業への打撃は最も深刻なものになると予想されるが、こういった労働集約型企業が雇用維持に果たしている役割を考えれば、雇用市場も大きな打撃を受けることになります。

そして、今、中国で平均賃金が急速に上昇しています。その賃金上昇に人民元切り上げを加えれば、外資系企業にとって中国の労働コストがさらに上がることになります。外資が中国の労働コスト高騰を恐れ、中国進出を躊躇すれば、中国経済の活力が削がれます。

 

このように、人民元高は中国にとって、メリットとデメリットの両方があります。そこで、重要なポイントは、メリットが現れるのに時間はかかる(産業の転換に時間がかかり、内需拡大のカギとなる貧富の差を縮めることにも時間がかかる)が、デメリットが直ぐ現れると予想されることです。こうして見ると、中国政府は容易に人民元切り上げの決心が付けません。

 

 さらに、ここにきて、ドル/ユーロの為替レート変化も人民元の切り上げを難しくしています。

というのは、最近、ドルがその最も強力な競争相手で、第2の通貨であるユーロに対して強くなってきました。昨年11月当時1ユーロ=1.51ドル前後でしたが、今は1ユーロ=1.36ドル前後でドルが10%ほど強くなりました。このようにドルが強くなったことは、中国の政策当局にとって、人民元の対ドル切り上げを難くしたことを意味しています。と言うのは、ドルがユーロに対し強くなったことで、ドル連動をしている人民元もユーロに対し強くなり、その上、人民元がさらにドルに対し強くなれば、中国の対ユーロ圏輸出がますます難しくなります。

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