中国の不動産バブルと地方財政: 呂 新一
筆者が今2月3日の本欄において、「中国の都市建設、銀行と金融政策」というタイトルで、中国では、各地方政府が銀行から資金を調達するための融資会社を作り、そうした融資専門会社がいま3,800を超え、調達した資金が6兆人民元(日本円で約79兆3,000億円)に上がり、都市建設に大きく貢献した一方、返済が問題になるだろうとのことを紹介しました。
その約2週間後、「日本経済新聞」に中国の地方政府のこうした資金調達手法ならびに負債状況を説明する記事を載せました。そして、今月になってから、中国政府はその問題を重要視する姿勢を打ち出し、銀行監督委員会が「政府系融資専門会社の信用リスクを防ぐこと」を今年の最重要仕事の1つと位置付けし、各政府系融資専門会社に今まで借りた全ての資金について、その使い道、回収見込み、及び返済計画などを詳しく報告するように求めています。
そこで、いま、厄介なことは、中国の政策当局および監督当局でさえ、各地方政府がこうした融資専門会社を通して、果たして銀行からどれくらいの資金を借りたのか、そして、どこまで返せるのかなどについて、把握できていないことです。負債総額については、最も権威のある政府系研究機関である中国社会科学は6兆人民元超と見ているが、政府系大手証券である中国金融公司は7.2兆元余りと見ています。そして、返済能力については、ほとんどの研究機関が悲観的な見方をしています。
仮に保守的な計算に従い、そうした負債総額が6兆人民元前後であるとしても、2009年GDPの20%に匹敵し、返済は難しいと見られます。また、地方政府の主な収入源である土地使用権譲渡金をベースに計算すると、2009年の譲渡金総額が約1.6兆人民元で、その半分が借金への返済に回し、かつ借金に金利が付かないとしても、完済するまでは7年6カ月かかります。言い換えれば、中国では、多くの地方政府財政がとてつもない大きな時限爆弾を抱えており、それが将来的に、中央政府には無論のこと、地方住民にとっても非常に大きな負担となる恐れは極めて高い。
もっとも、地方政府の信用リスクは予想よりも早い段階で表面化する可能性があります。というのは、現地専門家の話によると、地方政府は土地利用権を譲渡することで収入を得るだけでなく、傘下の融資専門会社にも土地利用権を譲渡し、その土地を担保に銀行から資金調達をさせています。こうした行為が、1つのねずみ講みたいな構造を作り出しています。即ち、土地を担保に銀行から資金を調達し、その資金で色んな土木工事を行い、土地を開発して転がし、値段をとんとん吊り上げていきます。そして、土地の値段が上がったことで、担保の価値が上がり、銀行からさらに多くの資金が借りられ、財政収入増、不動産バブル膨らみ、財政収入がさらに増加するという悪循環が出来上がっています。この循環が永遠に続く前提は不動産価格がどうなに高くなっても買い手が湧き水にように後をと絶えないことですが、無論、このようなことはありえません。そこで、一旦、土地価格が下がり始まると、今までの歪みがあらわになり、地方財政の破綻が相次ぐことになると思われます。
そもそも、地方がそこまで財政収入が欲しく、そこまで土地利用権の譲渡金に頼っている理由は、1)GDP成長率が地方幹部の実績評価に使われ、出世に繋がっているためと思われます。財政収入があれば、それを土木工事に注ぎ込み、手っ取り早くGDP成長率の嵩上げができます。2)1994年に実施された分税制で、それまでに地方収入の大半を占めていた財源が中央政府に移譲した一方、それまでに負担していなかった地方公務員、教務員の給与などに責任を持つことになり、何もしなければ、地方財政が困窮の一途をたどるだけです。
こうして見ると、中国が不動産バブルをソフトランディングさせるには、地方幹部の評価基準、並びに地方の財政問題を真剣に検討し、見直さなければなりません。
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