« 不屈のプレイボール、森哲志、河出書房新社 | トップページ | Her Majesty 、大英帝国通貨上昇 »

2010年3月31日 (水)

中国人民元問題をもう1回考える: 呂 新一

去年の後半辺りから中国人民元の交換レートを巡り議論が盛んになり、そして、今月15日にアメリカの超党派議員130人がガイトナー財務長官とロック商務長官に書簡を送り、中国の「為替操作」問題への対策を直ちに講じるよう求めたことで、人民元問題が一気に緊迫化しました。

 

では、人民元問題は果たしてどうなるのか、解決策があるのか、こういった疑問に答えるため、現状を整理してみる必要があります。

 

一、いま、中国では人民元の切り上げに反対する声が強い

人民元の切り上げに反対する理由はさまざまであるが、もっとも強硬でありかつ広く受けいれられたのは、米国の陰謀論です。即ち、米国が中国の経済発展を脅威と受け止め、かつて日本に対してしたと同じように、中国経済を崩壊させ、自国の優位を保つために、人民元高圧力をかけているとのことです。この見方をしていれば、米国がどうなことを言っても、中国は現行の人民元レートを死守するべきであり、妥協の余地は一切ありません。

2番目に多い理由は、人民元切り上げによってもたらされる実害についての想定です。例えば、人民元高になれば、ホットマネーがこれまで以上に中国に流入し、資産インフレを招きと同時に、人民元高で輸出が落ち込み、雇用が大きな問題になる恐れがあるなどなどです。

そして、3番目に見られる理由は、主に心情によるものです。例えば、人民元は中国の通貨ですので、人民元のレートについて、中国が主導権を握るのは当たり前のことであり、米国の国内政治に利用されたくないとの考えです。

他方、米国内の議論を見ると、人民元切り上げを求める理由は、純粋に経済理論に従う結論から、雇用市場を守るための視点までさまざまです。ただ、中国に見られるような、戦略的なレベルまで高め、そうでなければ米国経済が中国に負けてしまう議論はあまり見当たりません

 

二、切り上げをしたらどうなるのか

中国にとっては、人民元を大幅に切り上げると、輸出が落ち込み、玩具・紡績品など付加価値の低い製品を生産している中小企業が大量に倒産し、その結果、労働市場が大きなダメージを受けると思われます。

他方、アメリカから見ると、人民元が高くなれば、安い製品の輸入先が中国からほかの発展途上国に変わるだけで、貿易赤字はそれほど減らないと思われます。そもそも、前世紀70年代からアメリカの製造業の空洞化が既に始まったので、サプライヤー・チェーがきれいになくなった今、人民元高との理由だけで、製造業を呼び戻すのは容易ではありません。その意味では、人民元の切り上げで雇用回復を期待していた人達は肩透かしを食らう可能性は高い。

 

三、人民元は安くない

米国の政治家は好んで人民元が不当に安く放置されていると言います。しかし、アメリカに輸出された中国製品が安い理由は、人民元が安いというより、本来、製品コストに反映されるべき環境汚染、資源の消耗、地代、そして出稼ぎ労働者の厚生福祉などが、十分に反映されていないためであり、その上、中国政府が輸出を奨励するため、輸出企業に付加価値税の還付を行っているためです。

言い換えれば、中国製品の輸出価格競争力は人民元安より、中国国内の環境、資源、労働者、そして政府の財政に重い負荷をかけたことからきています。

 

四、当面切り上げはない

世界経済がまだ不安定である現在、米国は経済面での相互依存関係を深めている中国をこれ以上刺激しないため、来月中旬に発表される財務省為替政策報告書で、中国を為替操縦国に指定しないと思われます。

他方、中国から見ると、最大の輸出先である米国との貿易摩擦を緩和するため、将来的にある程度の人民元切り上げは止むを得ないと考えている可能性が大きい。そのベストタイミングは、米国からの切り上げ圧力が弱まり、かつ米景気の回復が顕著で輸入品に対する価格弾性値が低くなった時です。そして、切り上げ幅は非常に小さなものに止まる公算が大きい。というのは、仮に人民元を大幅に切り上げすれば、世界中に、中国は米議員の言う通り、“人民元を操作している”と認めることになるからです。

野村雅道と楽しい投資仲間達おすすめFX会社

|

« 不屈のプレイボール、森哲志、河出書房新社 | トップページ | Her Majesty 、大英帝国通貨上昇 »

4呂新一」カテゴリの記事

米国経済」カテゴリの記事

中国事情」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 不屈のプレイボール、森哲志、河出書房新社 | トップページ | Her Majesty 、大英帝国通貨上昇 »