米国の財政赤字、中国の不動産バブルとドル円: 呂 新一
ギリシャの例が代表しているように、先進諸国が景気刺激のためにこぞって財政の大盤振るまいをした結果、巨額の財政赤字が新たな問題となり、景気の先行きに黒い陰を投げかけています。
米国もその例外ではありません。米財務省の発表によると、2009年度の財政赤字が約1兆4,000億ドルと、史上初めて1兆ドルの大台に乗せ、また、GDP対比では10.0%と、1945年度以来の最悪な水準になりました。そして、今年度(2010年度)について言うと、ホワイトハウスの行政管理予算局(OME)は財政赤字が1兆6,000億ドルまで膨らみ、GDPの10.6%になろうと予測しています。
巨額の財政赤字を補填するため巨額の国債が発行されます。今年の発行予定額は2兆5,500億ドル(日本の2010年度予算案での国債発行額は44兆3,000億円で約4,950億ドル)です。普通では、これほどの発行額を消化する際、市場金利は上昇します。しかし、今のアメリカは住宅価格が依然下げ続き、雇用も一向に改善しないため、物価が高まりそうな状況になく、その結果、市場金利の上昇は考えにくい。
財政赤字による市場金利への影響が軽微であれば、それが理由でドル/円が上昇可能性も殆どないと見られます。
一方、米国債の最大の海外購入者である中国は、最近、米国およびその他の先進諸国から頻繁に人民元切り上げ圧力を受けています。筆者の見る限り、中国政府がそうした圧力を受けて人民元を本格的に切り上げる可能性は殆どありません(無論、政治ショーのため、小幅な切り上げは考えられます)。その理由について、筆者が1月16日の本欄「中国政府が人民元を切り上げしない理由」に書きましたが、ここでは、中国の物価水準との関連で以下のような補足説明をします。
中国の物価水準に詳しい方がご存じのように、中国では普通の生活用品の価格と、奢侈品・住宅の価格が同じ社会に併存しているモノの値段とは考えられないほどかけ離れています。即ち、普通の生活用品の価格は発展途上国の価格であるが、奢侈品・住宅の価格は先進国の価格となっています。言い換えれば、普通の生活用品の価格から見ると、(富裕層だけにとって)人民元切り上げの余地があるが、奢侈品・住宅の価格から見ると、(普通の庶民にとって)人民元切り上げの余地は全くありません。
このような状況下で、もし、中国政府が本格的に人民元を切り上げすると、何が起こるかというと、普通の庶民にとって、生活コストが上昇してしまい、一層の生活苦に陥り、勤め先が輸出関連であれば職の安全も危うくなります。他方、富裕層にとって、今まで高級不動産を買いあさっていた海外資金が人民元高をきっかけに利益確定に動き中国から撤退してしまえば、不動産価格が下落し、自分たちの資産が目減りすることになります。
人民元が大幅高になれば、果たした上述したことが起こるかどうかは定かではありません。しかし、中国政府がこのように考えて、憂慮し、なかなか本格的に人民元の切り上げに動けないことは十分に考えられます。
中国が人民元の切り上げに動かなければ、中国を対米迂回輸出の基地に使っている日本の通貨である―日本円に対するドル安・円高圧力も弱まらないと思われます。
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