中国政府が人民元を切り上げしない理由: 呂 新一
中国政府は人民元を切り上げしないと腹をくくったようです。温家宝首相が12月27日、新華社とのインタビューで、欧米などが人民元の切り上げを求めていることについて「各種の圧力により人民元切り上げを迫っても、われわれは絶対に応じない」と述べました。
確かに、中国政府の置かれている状況を考えると、今は、人民元の切り上げに動く時期ではありません。
というのは、中国経済にとって、今年の内需伸び率が昨年より低くなり、外需が一層重要になる可能性が大きいからです。今の中国で、不動産価格の高騰に苦しむ国民が増え、政府に価格抑制に乗り出してほしいとの声が非常に強い。そのため、中国政府が昨年12月より住宅市場の熱を冷やすことに乗り出しました。ただ、住宅市場は今、中国経済を支える一大柱となっているため、政府による抑制措置に仮に効き目があれば、GDP成長率への下振れ効果は避けられません。事実、GDPに占める新築住宅販売額の比率を見ると、2007年が10.4%、2008年が7.6%で、2009年は大きく上振れし13%超と予測されています。
また、中国政府は昨年に起きた過剰投資の是正と、「合理的な範囲」に物価上昇を抑制する(温家宝首相、昨年12月27日)ため、今年の銀行貸出総額が昨年に比べ25%ほど減らす方針のようです。貸出総額を減らされると、色んな分野で需要が委縮していくことは考えられます
では、個人消費はどうですか?それも頼れないと思われます。今の中国で、GDPよりも速いスピードで拡大し続けているのは、貧富の差です。北京師範大学の李実などの研究者の調査によると、1988年から2007年までの20年で、上位10%の人の収入と下位10%の人の収入格差が、7.3倍から23倍まで拡大しました。また、発展改革委員会(中国の経済産業省)のデータによれば、GDPに占める雇用者賃金総額の比率が1980年の17%より持続的に下がり、2007年には11%まで低下しました。言い換えれば、労働者が手にできる経済成長と言うパイの取り分(比重)が年々小さくなり、もっとおカネを使おうと思ってもそのような余裕はありません。
このように、内需の伸びにあまり期待できないとなれば、中国政府にとって外需が一層重要になります。まして、米国の景気回復が鮮明になっている現在は特にそうなります。
ただ、オバマ政権にしてみれば、中国の人民元安政策が自国の労働市場の脅かすもので、坐して看過することはできません。中国が人民元の切り上げに応じなければ、関税の引き上げで対抗することも辞さないということになります。事実、中国温家宝首相が12月27日に、われわれは絶対に人民元の切り上げをしないと述べた後、12月30日に米国際貿易委員会(ITC)が中国製の油井管に対して、10.36-15.78%の関税適用を最終承認しました。
今年は米中間選挙の年です。民主、共和両党とも、選挙民の受けを狙い、中国製品の輸入ハードルをさらに高めることに出る可能性があります。言い換えれば、今後、米中の貿易摩擦がさらに強まることが考えられます。
そのことと関連して、日本円について言うと、中国が人民元の切り上げに応じない姿勢は、結果的に円高圧力を強めることになります。
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