2010年の中国―物価上昇抑制と株価: 呂 新一
中国について言うと、規模が話題になることが多い。最近では、来年にも中国が日本を抜き世界第2位の経済大国になることが関心を集めています。
世の中は、質より規模(サイズ)の方は達成しやすい。中国のような国土が広く、人口が多い国にとっては特にそうです。GDPについてさらに言うと、中国の一人当たりGDPが未だに日本の13分の1に止まっていますが、人口が日本の約13倍とのことで、国としてのGDP規模が間もなく日本を上回るようになります。
確かに、1つ1つの国を単位に見た場合の国力、或いは一国の政府がある目的のため集められる富で判断する場合、国全体のGDPの大きさがものを言いますが、そこの国の国民から見ると、一人当たりGDP 、生活のし易さ(質)などがより身近な尺度であり、自分の生活水準を反映しています。
今の中国で、国民の最大の悩みは住宅価格の高騰と物価上昇であり、国民に安心して生活できるようにするには、この2つの価格上昇を抑制しなければなりません。事実、政府もその点が分かっていて、温家宝首相が27日、国営新華社通信とのインタビューで「一部の地域で不動産価格が急激に上昇し過ぎており、当局は税制や貸出金利を利用して価格の安定化を図るべきだ」と述べたと同時に、世界的な商品相場の上昇で中国もインフレを予期しておくべきだとし、「合理的な範囲」に物価上昇を抑制する考えを明らかにしました。
ただ、実態はとくに政府が認めている範囲を遥かに超えたと見られます。中国の不動産市場は「一部の地域で」高騰しているというより、全国的な現象になっています。仮に不動産価格の高騰が「一部の地域」に止まっていれば、広大な国土を持つ中国にとっては無視できるような問題で、政府・共産党の威信を代表している総理がマスメディアに“認めるよう”な事態にはならないと思われます。
物価上昇も「合理的な範囲」を超えていく可能性があります。中国国家統計局の発表では、11月の消費者物価指数は前年同月比0.6%の上昇に止まっていますが、国民生活に密接に係わっている食品価格は3.2%上昇しました。そして、国家統計局の説明によれば、(住宅価格が高騰している現在での)「居住価格の低下」が消費者物価の抑制に寄与しているそうです。
また、今、中国で、北京、上海、広州、南京、天津、瀋陽など、都市部での水値上げが1つの流行りになっています。北京市では24.3%の上昇となっていますが、中には一気に45.5%の値上げを実施したところもあります。今年に度重ねて実施されたガソリン、都市ガスの値上げに水道値上げを加えると、家計負担増による消費抑制効果が今後ジワジワと現れていくと思われます。
事実、胡錦濤国家主席の出身母体である中国共産主義青年団が発行する中国青年報(中国青年デリー)の11日の報道によれば、青年報調査センターが全国2万人に質問調査した結果、2010年について最も関心を持っていることは、
一、物価(62.2%);
二、住宅価格(61.1%);
三、医療費用(46.0%);
四、貧富の差(42.9%)
の順になっています。また、85.6%の人は2010年に身の回り用品が値上がりすると予想しています。
このように、経済大国の道を邁進し輝いているように見える中国で、普通の国民は物価高、住宅難に悩まされているのは実態で、その問題の解決は政府にとって社会安定を維持するうえで喫緊の課題と言えます。
そして、仮に政府が固い決心をし、金利などの政策手段を用いて物価上昇、住宅価格の高騰の抑制に乗り出すと、少なくとも短期的に中国株が強い押し下げ圧力を受けることになると思われます。
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