景気はまだまだ大丈夫とは言えません: 呂 新一
先週の本欄において、筆者は「目先の楽観を通り越して」とのタイトルで、中国、そしてアメリカの国内消費の先行きがあまり楽観できない理由を説明しました。その後、アメリカの10月消費者信頼感指数が47.7と、9月の53.4から大幅に低下したと発表されました。筆者の憂慮が的中しました。
消費者が元気になれない最大の理由はやはり雇用情勢が一向に改善しないことにあると思われます。事実、コンファレンス・ボードが行った調査によれば、雇用について「就職困難」との回答が9月の47.0から49.6に上昇しました。企業は売上が増えない現在の状況下で収益を拡大しようとすれば、おのずと人件費削減に走り、その結果、雇用の拡大は暫く絶望的と思われます。
さらに悪いことに、近いうち、政府による公務員削減の動きが顕在化し、雇用情勢が一層悪化する可能性はあります。というのは、今のところ、カリフォルニア州を始め、多くの地方政府はワークシェアリングあるいは強制無給休暇を増やすとの方法で支出を削減していますが、そのうち、税収の落ち込みによりさらなるコストダウンを迫られると、大規模な人員削減に踏み切る恐れがあります。アメリカの国家・地方公務員の合計人数が製造業の1.8倍にも達しているだけに、その職の安全性は消費、社会安定、そしてアメリカ経済にとって非常に重要であることは言うまでもありません。
民間消費の回復が期待できないだけに、政府による刺激策が引き続き大事ということになります。それが、米上院民主党が8000ドルの初回住宅購入者向け税控除措置の延長を合意した背景と思われます。言い換えれば、今までのところ、景気回復が依然非常に脆弱です。
景気回復が脆弱であるにも関わらず、3月上旬から今までの間、米株は上昇基調を維持してきました。その理由は景気がある程度回復しているほか、金融機関を救うために政府・FRBが金融システムに投入した大量の資金が実体経済に向かう代わりに、株・国債・商品先物などに流入した可能性が考えられます。金融機関が融資姿勢を厳しくした結果、Wall Streetが株高に喜び、Main Street(企業、一般大衆)が借金難に陥っている構図が鮮明になっています。
ただ、言われている景気回復が意外に脆弱であることが判明したため、米株式相場が今年3月以来の最大の試練を迎えています。下記チャートは恐怖指数との別名を持つVIX指数の推移で、3月上旬以こう低下または低位安定を保ってきましたが、ここ2週間急騰を見せています。このことは、言うまでもなく、株式市場が3月以来の大波に晒されていることを示しています。
中国について言うと、PMIは改善しているが、それよりも熱くて手付けられないほどになっているのが不動産市場です。今日伝えられたニュースによると、過去7カ月で、深圳市の新築住宅の平均価格が97%上昇しました。また、上海では、国有企業が一等地で高級住宅の販売に乗り出し、その中で最も豪華なものは15億日本円になると言われています。
中国の不動産価格急騰が中央政府の日本円にして57兆円にものぼる景気刺激策に支えられています。今の中国では、各大都市の至る所で、国有企業による土地の高値買収が盛んに行われています。眼玉が出るほど高い値段で土地を買収する目的はただ1つで、さらに高い値段で売ることです。景気刺激・銀行の融資加速 ⇒ 資金が国有企業へ流入
⇒ 土地転がし・不動産価格急騰、この構図は今のところ中国経済を支えているように見えるが、もはやソフトランディングできる段階を通り越したと思われ、本来は憂慮すべき事態ですが、止める力は見当たりません。
野村雅道と楽しい投資仲間達おすすめFX会社
| 固定リンク
「4呂新一」カテゴリの記事
- 野村さんへ: 呂 新一(2010.06.08)
- 別れの言葉: 呂 新一(2010.06.08)
- 日本の財政赤字と新しい経済成長の可能性: 呂 新一(2010.06.08)
- 明日(次の取引日)のTOPIXは:呂 新一(2010.06.08)
- 明日(次の取引日)のTOPIXは:呂 新一(2010.06.07)
「米国経済」カテゴリの記事
- ギリシャ財政危機は我々に何を語っているのか: 呂 新一(2010.05.26)
- 米株、中国株の行方: 呂 新一(2010.05.19)
- ギリシャの財政危機とこれからの株価: 呂 新一(2010.05.12)
- NY株式相場、一息いれますか? 呂 新一(2010.04.07)
- 中国人民元問題をもう1回考える: 呂 新一(2010.03.31)
「中国事情」カテゴリの記事
- 固定資産税の導入を考えている中国政府: 呂 新一(2010.06.02)
- ギリシャ財政危機は我々に何を語っているのか: 呂 新一(2010.05.26)
- 米株、中国株の行方: 呂 新一(2010.05.19)
- ギリシャの財政危機とこれからの株価: 呂 新一(2010.05.12)
- 谷村新司の「昴」と万博後の中国: 呂 新一(2010.05.05)
コメント