安い人民元で米国の内需が中国の外需に: 呂 新一
先週の本欄において、我々は、いま氾濫しているチープマネーと資産価格との関係について、アメリカではチープマネー(ドル安)が株価、商品価格を押し上げ、1つのバブルを作り出している可能性、そして、中国ではチープマネーが不動産バブルを演出し、このままいけば、不動産価格の大規模な調整と銀行の不良債権急増が避けられないことを述べました。
この米中両国でチープマネーが氾濫していることは、両国政府が意図して作り出した現象であり、両方とも時間稼ぎのためと見られます。
米国政府は昨年巨額の国債を発行し、それをFRBに換金してもらって得た資金で金融機関から不良資産を買い取り、何とか金融危機を凌ぎまして、今は、FHA ( Federal Housing Administration)を通じて住宅市場に洪水のようなローン資金を投入すると減税措置により、何とか住宅価格の大幅続落を防いでいます(数年前では、全体の住宅ローンに占めるFHAローンの比率が5%前後でしたが、今では20%前後占めるようになりました)。
FRBによる低金利政策も含め、米国政府は大量のチープマネーを供給することで、金融システムと国内消費を維持しています。その目的は何とか時間稼ぎをして、新しい経済構造が出来上がるまで繋げていくことと思われます。
無論、米政府のそのやり方の必然的な結果として、ドル安が止まらなくなります。ただ、今のところ、ドル安は米国にとってまだ深刻な脅威になりません。というのは、バブル崩壊によって生産能力が過剰になり、そして住宅価格も大幅に下落したため、潜在的なデフレ圧力が強いと見られます。そのような状況下でのドル安は米国政府にとって脅威ではなく、むしろ、この不況期で海外商品の流入を防ぐ効果があると見られます。
そのような状況下で、中国政府が未だに維持している人民元のドルペッグ政策は米国にとって頭痛のタネとなります。ドルは殆どの主要通貨に対し安くなりましたが、唯一中国人民元に対して安くなっていません。そして、中国が世界の生産工場と言われているだけに、安い中国製品が今でもとんとん米国内に流れ込んでいます。言い換えれば、人民元がドルペッグしている結果、米国が全力を尽くし折角維持している内需が国内に止まらず、中国の外需に化けています。
一方、中国政府から見ると、米国自身が今回の金融危機を招き、中国にとってはありがたい迷惑です。いずれ、自国経済発展の柱を内需にシフトしなければならないことは分かっていますが、国民に安心して消費できるためにやらなければならないことが山ほどあり、そう簡単にいきません。そこで、最も現実的な方法は、取りあえずチープマネーをとんとん発行し公共投資を増やして仮の内需で輸出減を補い、そのうちにアメリカの景気が持ち直せば再び対米輸出を増やすことと思われます。無論、この戦略がうまくいくには人民元の米ドルペッグを維持しなければなりません。
というのは、日本と違って、中国製品がアメリカで売れるのはブランド力というよりは単に値段の安さです。中国政府もその点がよく分かっているため、人民元の米ドルペッグ制を変更できずにいます。
無論、より長期的な観点から見れば、世界の最大な債務国である米国が自国通貨の長期下落をそのまま放置すると、いずれ、資源・エネルギー価格の暴騰が起こり、又は海外資本が離反するなど、ツケを払うことになります。また、中国がいたずらに人民元の切り上げを先送りすると、将来の経済構造転換(産業構造の高度化、内需に軸足をシフトするなど)がさらに難しくなると思われます。
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