目先の楽観を通り越して: 呂 新一
景気に持ち直しの兆しが出てきたことから、ドイツ、フランスなどは総合対策からの出口戦略を考えているようです。そして、ここにきて、米国も利上げが早まるとの観測で国債が売られています。
しかし、実体は多分これからずっと楽観していられるほど好転していない可能性が大きい。
今回の世界的な金融危機の後、一足先に出口戦略を考えて実行しようとしていたのは中国政府でした。先々月5日、中国の中央銀行である人民銀行が現行の金融緩和策を微調整する可能性を仄めかしたことをきっかけに、中国株が3日間連続売られました。それを見て、中国政府・人民銀行は慌てて現行の金融緩和・積極財政路線の堅持を宣言しました。
確かにGDP成長率だけを見ると、中国経済は順調すぎると言えるほど回復しています。事実、第1四半期のGDP成長率が6.1%、第2四半期が7.9%、第3四半期が8.9%で、回復するぶりは驚異的です。そして、多くの大型プロジェクトがいま進行中であることを考えれば、第4四半期のGDP成長率はさらに高くなると予想されます。ただ、一方、株価が景気を先行するとの観点からみると、矛盾するところもあると感じられます。というのは、中国上海総合株価指数が8月初めに3,478ポイントの高値を付けてからは、未だにその高値を抜けずにいます(下記チャート参照)。即ち、株式市場はまだ景気の先行きに不安を感じているようです。
株式市場が抱いているその不安はそれなりの理由があります。というのは、現在の景気回復は主に政府主導の社会固定資本投資によって引っ張られたもので、民間・消費主導とは言えません。GDPの内訳をみると、投資と輸出が75%も占め、消費は35%しかありません。また、そうなった理由を見ると、これまでの3四半期において、政府によるインフレ建設投資が前年同期比52%も増え、特に鉄道建設投資は87%も増えました。言い換えれば、中国の景気回復は政府が作り出した回復で、自律的、持続可能な回復とは程遠い。
また、最近、政府が発表したGDPと違う風景を見せている調査結果が発表されています。その二、三を見てみましょう。
・北京市では、昨年夏の大卒(中国では夏に卒業する)の半年後就職率は88%で、一昨年の93%より5%低下しました。そして、卒業した半年後の平均月給は2,746元(日本円で約3万円)で、一昨年の3,080元より8.9%(!)も少ない。
・10大都市で3,295人を対象にした調査結果によれば、2008年1年で、収入が全く増えなかった家庭は全体の79.6%も占め、そのうちの27%は収入が減りました。そして、今年前半の5カ月で収入が全く増えなかった家庭は全体の85.4%まで上昇し、そのうちの31%は収入が減りました。言い換えれば、中国経済が7%前後の成長をしている間に、8割超の都市住民は収入が全く増えず、3割弱の都市住民がより貧乏になりました。
このような状態では、民間消費の盛り上がりはあまり期待できません。
中国はこの状況ですが、米国を見てもそれほど状況は変わらないと思われます。決算発表で米企業の収益回復ぶりが目覚ましいが、その最大な原動力が給与削減などのリストラであることを考えると、米国の消費回復もまだまだ先であると思わざるを得ません。
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