ファンダメンタルズに回帰する中国株: 呂 新一
8月31日の中国上海の株式相場は続落しました。上海市場の主要株価指数である上海総合指数が前営業日比べ6.74%の下落を演じ、一日の下落率として、2008年6月以来の最大を記録しました。
31日の下落で、8月4日にピークをつけてからの上海総合指数の下落率は25%に達しました。中国の株式相場が世界に先駆けして回復してきただけに、その急落が他のアジア諸国、そして欧米の株式相場にマイナス影響を与えました。
今回の中国株急落は、冷静に見れば、流動性相場からファンダメンタルズに回帰する動きと言うことができます。言い換えれば、8月4日までの株価上昇が流動性によって膨らまされ支えられたもので、しっかりしたファンダメンタルズ上の裏付けはなかったわけです。
まず、GDPを見てみましょう。第一四半期のGDP成長率が6.1%で、前年同期比4.5%も低くなり、第二四半期のGDP成長率が7.9%に回復したものの、2008年の9.0%に比べれば依然低いと言えます。そして、企業業績を見てみます。この前、上海証券取引所と深せん証券取引所に上場している計1,637社の上半期決算報告が出そろいましたが、それによると、上場企業の上期純利益合計が4810.59億元と,昨年同期より14.79%下落しました。言い換えれば、上半期の株価上昇にファンダメンタルズ上の裏付けはなかったわけです。
一方、今年上半期に流動性はジャブジャブに供給され、1-6月の貸出増加額が7.37兆元と、昨年一年の98%にも達しました。筆者は2月13日付けの本ブログで「昨日の中国人民銀行発表によれば、09年1月のマネーサプライ(M2)は前年同期比18.79%伸び、銀行貸し出しは21.33%も増えました。ジャブジャブに出されたマネーがそのまま株式市場に入り込んだら、株価だけがますますインフレする時代がくるかもしれません」と指摘しまして、そして、4月15日付けの本ブログで「投資好きな人達からみると、マネーサプライン急増は株式投資の好機であり、そのスピードが落ちてくるまでは株式投資を増やすべきです」と述べました。言い換えれば、流動性に支えられた株価である以上、流動性が落ちていれば下落は避けられません。今は、まさにその時期です。
今のところ、流動性が落ちています。事実、報道によれば、8月の貸出増加額が2,500-3,000億元の間で、7月の3,559億元より低くなる公算が大きい。今までの経験では、8月の増加額が7月より大きいが、今年は違うようです。
では、これから、流動性相場は再び来ないのですか?その可能性は非常に低いでしょう。
まず、政府は株式市場と住宅市場のバブルを強く警戒しているそうです。銀行貸し出しの急増ぶりを見て、中央政府と関連する省庁は再三にわたり、資金が不正に株式市場と住宅市場に流入するのを厳重に防がなければならないと強調していました。
そして、銀行の自己資本不足も貸出の増加に歯止めをかける可能性があります。事実、今まで発表されて銀行の中間決算を見ると、既に監督当局によって決められた預貸率のレッドラインを突破した銀行が4行もあり、さらに、主な民間銀行のうち、数行は自己資本比率が10%を下回りました。今後、こういった銀行は資本補充をしなければ、融資の拡大は難しいと思われます。
ただ、中国政府は、株価下落または株価低迷によるマイナス影響を考慮して、流動性のソフトランディングを図り、貸出増に急ブレーキをかけるつもりはないと見られます。
流動性が低下し、株価がファンダメンタルズに回帰するということは、株式相場の調整がまだ終わっていないということでしょう。
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