中国の景気刺激策と株価: 呂 新一
中国も参加し先週末ロンドンで開かれたG20は、世界経済について「改善している」との認識を示したと同時に、景気回復が確実になるまで刺激策の継続を申し合わせました。そして、今週月曜日に北京で、マクロ経済を統括する中国国家発展改革委員会のメンバーが訪れた日本経済界代表団に「積極的な経済政策を続けて景気安定を実現したい」と伝えたそうです。即ち、できることなら、中国政府は今までの景気刺激策を継続していくつもりと思われます。
中国政府の望む通り景気刺激策が続けられ、そして中国経済が順調に成長していけば、日本にとっても恩恵は大きい。ただ、現実的には、中国政府が今までの景気刺激策をそのまま続けるのは難しいと見られます。
というのは、まず、いままでの刺激策の重点は社会固定資産投資(主に公共建設)と銀行の貸出増を促すことに置かれていましたが、各種建設プロジェクトが急増した結果、鉄鋼、セメントへの需要が膨らみ、既に設備の3割ほどが余剰であると言われていたこういった産業の調整が難しくなりました。しかし一方、現在、行うべきである設備調整を建設材料への特需がなくなった後へ先送りすると、調整過程が厳しいものになるだけでなく、経済全体へのマイナス影響も大きなものになると予想されます。
また、銀行貸出急増は不動産価格高騰の一因になった可能性が大きい。今年になってからの不動産価格上昇は常識の範囲をはるかに超えました。報道によると、先週末北京で開かれた«2009年秋の住宅展覧販売会»での平均成約価格は半年前の«2009年春の住宅展覧販売会»より26.8%も上昇しまして、同様に、南の温州市も今年に入ってからの住宅価格上昇は既に30%を超えました。住宅価格が急騰し、その結果、想定を大幅に超過した負債を背負わせられた一次購入者は、これから数十年にわたり住宅ローン(銀行)の奴隷になり下がり、借金返済のため生活を切り詰めることに走ることが容易に想像できます。無論、このような現象は中国政府が目指している内需拡大にとって大きな障害であることは言うほかありません。
思い切った金融緩和の結果、企業は潤沢な手元資金を抱えることになったが、一方では住宅市場以外有望な投資先が見つからず、当面の収益を獲得するために住宅市場に参入することは合理的な選択となりました。事実、ここ数カ月、数多くの大手国有企業がほか民間企業より遥かに低い資金調達コストと中央政府の後ろ盾との武器を活かし、不動産開発子会社を設立するまたは新築物件を大量に買い取るなどの形で住宅市場に参加しているとの報道は後絶ちません。
ただ、どの基準からも説明不可能な高さまで押し上げられた中国の住宅価格はますます不安定な状態に入ったとも言えます。言い換えれば、いまのような金融緩和をさらに続けても、銀行に収益をもたらすところか、不良債権の急増に繋がりかねません。その可能性について、中国政府は既に警戒しているように見られ、事実、銀行監督委員会の副会長が今月初め、2年後に中国の銀行の不良債権が2%上昇する恐れがあると言明しました。
無論、中国政府も、中国の各銀行も、数年後にアメリカのサブプライム悲劇が中国で再現されるのをぜひとも避けたいと見られます。従って、1つの可能性として、これから相当長い期間において、中国政府または各大銀行が口では緩和を続けると言いながらも、実際の融資行動により慎重になると予想されます。
景気の気の元となる国民の希望を委縮させず、最高の状態で建国60周年記念日となる10月1日を迎えるために、これからも、中国政府は色んな施策を施し、株価の維持に苦心すると見られます。ただ、今年上半期のような金融緩和はもう過去のことになり、企業収益の改善も当面見込みにくいなどを考えると、現行水準からの中国株の反発余地が小さく、10月1日を前に戻り天井を迎える可能性が高いと思われます。
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