中国 ― 流動性のソフトランディングが必要: 呂 新一
先週の本欄において、筆者は今年の中国経済成長8%確保が簡単なことではなく、今までの中央政府の8%確保努力が株式市場と住宅市場でのバブル再来にも繋がったと書きました。偶然ではあるが、その翌日(7月29日)、上海総合株価指数が大幅調整し、ザラ場で一時前日比7%超の下落を演じました。
今年上半期に見られた中国経済成長の再加速は、その87%が投資の増加によるもので、そして、その投資の増加は驚異的な銀行貸し出し増によるものです。この構造が筆者の心配の元となっています。
中国政府にとって、今後の政策舵取りが非常に難しい。即ち、市場に溢れている流動性を回収しなければバブルがますます膨らみ、最後に破滅する際のマイナス影響は測り知れません。他方、今から流動性の回収に動くと、株価と住宅価格の下落が避けられず、それが消費者心理に悪影響を与え、景気の気(希望)を挫きさせかねません。
というのは、今の中国の好景気が流動性に過剰に頼っているためです。株式市場では、個人はクレジットカードによる株式投資、持家を担保にした株式投資が盛んになるなど投機熱がますます高まる一方、機関投資家は個人の名義を借りた新株購入など不法行為が多発しています。誰もが中央政府(中銀)がじゃぶじゃぶに流動性を供給している今、株でひと儲けしようと考えています。そのような背景で、中銀がそろそろ引き締めに動くのではとの観測が7月29日の株価大幅下落を招きました。
住宅市場についても同じことが言えます。あるシンクタンクの調査によれば、今年上半期、不動産開発業者が銀行から借りた資金の総額は8千億元(日本円で約12兆円)と、2008年通年総額の8割にも達しました。また、個人が銀行から借りた住宅ローンの総額が2千829億元(日本円で約4兆2千億円)と,昨年同期より63.1%増えました。銀行の低利融資に支えられて、今年上半期の住宅販売面積が昨年同期に比べ33.4%増加しまして、そのうち、(地域によって)半分以上が投機目的によるものとされています。
このように住宅価格と株価が上昇するにつれ、個人マネーもますますこの2つの市場に流れまして、事実、家計の貯蓄増加率が1月の33.8%から6月の28.4%へ下落しました。
今の中国では、CPIを見る限り、インフレの脅威は全く感じられません。このことは、政府にとって緩和的な金融政策を続く根拠になっている可能性があります。ただ、CPIの安定推移を良いことに過剰にまで金融緩和を続くと、株と不動産バブルをコントロール不可能な状態まで膨らませる可能性が高いことは20世紀80年代後半の日本の教訓です。
その意味では、中国政府が8%成長の目標に拘るよりはバランスのとれた発展を目指し、過剰流動性を徐々に回収して、住宅市場と株式市場のバブルの抑制に動いたが良いと思われます。
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