中国 ― 容易でない8%成長確保: 呂 新一
中国の第1四半期GDP成長が6.1%、第2四半期が7.9%で、通年目標である8%成長に近づき、政府は胸を撫で下ろしているところと思われます。
中国国内だけでなく、国際的にも、中国政府が8%の成長を死守するつもりであることは広く知り渡っています。そのため、中国国内で、温家宝首相のことを「温保八」(八%の成長を確保するとの意味、中国語では“保”と“宝”の発音が同じ)と呼ぶ人もいます。
ただ、その8%成長確保は今まで難しかったし、これからも茨の道が待っているように思われます。
というのは、まず、今までのGDP成長は主に莫大な固定資産投資に引っ張られた結果と言っても過言ではありません。報道によると、上期GDP成長のうち、87%が投資増加によるもので、そして、上期の銀行貸出総額は7.8兆元(日本円で約109兆円)と、昨年の年間GDPの26%に相当します。その結果、下期にたとえ貸出の伸びがいくらか緩やかになるとしても、通年で見ると、貸出総額が昨年GDPの40%を超えることはほぼ間違いないと思われます。言い換えれば、GDPの40%を超えるおカネを投資し、その結果、なんとかGDPが8%ほど拡大出来そうであるとのことです。この投入-産出関係を見ると、間違いなく効率の悪い投資で普通の企業では考えられません。それだけ、8%成長確保の代償が大きいということでしょう。
それに、8%成長を確保するための貸出増やす号令と緩和的な金融政策を背景に、株式市場と住宅市場でバブルが再び膨らんでいます。
中国のある証券会社の調査によると、株価反発に伴い、A株のPERが28.5倍まで上昇し、4月初めの18.5倍より54%も高くなりました。また、国際的に見ても、アメリカのナスダックが17.2倍、ドイツのDAXが11倍、ロシアのIRTSが6.2倍、香港のハンセンが16倍で、やはり中国A株の割高感が目立ちます。天井知らずの株価上昇に誘惑され、今、中国でクレジットカードによる株式投資、住宅を担保に銀行から借金して株式投資する現象が広がっています。
住宅市場のバブル化については、本欄は度々指摘してきました。例えば、広東省深圳市では、今のところ、大学生初任給の1年分では、普通の物件の1平米も買えません。住宅市場が過熱化していることで、不動産業が儲かるとのイメージが広がり、他業種の企業も続々不動産開発に参入しています。
また、残念なことに、インフレ整備と住宅建設ブームでGDPの8%成長が何とか達成できそうにも係わらず、雇用状況が改善されず、政府が発表した統計でも上期の失業率が昨年末より0.1%上昇しました。
ただ、このように副作用が顕著になっても、中国政府がここで財政刺激・金融緩和策を打ち切ることはできません。というのは、打ち切れば、株価が急落し住宅バブルの崩壊も考えられます。今年が中華人民共和国の設立60周年に当たることを考えれば、政府が8%の成長達成を全てに優先すると思われます。事実、温家宝首相は先週、景気対策のためにとっている積極財政策と適度に緩和した金融政策を今後も断固として継続する必要があると宣言しました。
無論、中国政府も一時凌ぎの景気刺激策の弊害をよく知っていると思われます。中国にとって、最も望ましいシナリオは、海外景気が早く立ち直り、米国を中心に中国製品へのニーズが回復することでしょう。そうなれば、今までとってきた応急措置を徐々に解除でき、中国政府が産業構造の向上とソシアル・セーフティ・ネットの整備に専念できます。
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