2009年豪ドル見通し:津田
(豪ドル米ドル2007-2008)
(豪ドル円2007-2008).
(米ドル円2007-2008)
2008年豪ドル相場レビュー
毎年この時期になると翌年の豪ドル見通しを長年書いてきたが、激動の2008年も幕を閉じるにあたり感慨深いものがあると同時に、今年の相場に対して異質感を覚えるのは私だけではないであろう。それほど今年の相場は暴力的であり、かつ人の恐怖心理を揺さぶる展開であった。また従来の平時における種々の相場変動要因の分析はあまり意味をなさず、キーワード“リスク回避”の“高まり”と“後退”が日々の主たる相場変動要因という極めて変則的な相場展開であった。
今年の相場をレビューする上で、やはり昨年夏のサブプライム住宅ローン問題発覚時に戻る必要があろう。というのは米国を初めとする先進国は、昨年年明け以降も順調な景気拡大を続けていた。世界経済は2003年以降実質4%超の高成長下にあり、これは30年ぶりの良好な成長と言われていた。それが昨年夏以降、一転して先行き不透明感が強まった。それまで住宅ローン債券などの証券化商品をはじめとする米国の金融資産に向かっていた投資資金が米国を離れてドル安が加速。.原油・金などの実物資産、高金利通貨、.アジアを中心とした新興国株式、等の価格が急上昇した。今年年央にかけては金融不安が強まる一方、エネルギー価格高騰から各国ともインフレ懸念も並存するという困難な局面となった。今年3月に金価格は1011.25ドルの高値を付け、原油価格は7月に1バレル147.27ドルまで上昇し商品先物インデックス(CRB)は7月に史上高値473.97.まで上昇。この原油高の背景は新興国の高度成長を受けた原油需要の拡大という側面もさることながら、米国の金融資産を離れたリスクマネーの流入の影響が大きいであろう。景気先行き不安にもかかわらずRBAは今年3月に7.25%に政策金利を引き上げを余儀なくされる。この商品相場上昇と高金利を受けて豪ドルは7月に変動相場以後の最高値0.9848、対円でも104.47円を付けた。(史上高値は昨年10月の107.87円)しかしその直後から市場は急変する。つまり米国における金融不安の急激な悪化である。米政府系住宅金融機関(GSE)や米系証券会社、シティーグループなど大手米銀、AIGなど矢継ぎ早に問題金融機関がクローズアップされ、ついに9月にはリーマンブラザーズが経営破綻する。かかる状況下リスク回避の動きが急激に強まり、今まで資金の受け皿となっていた高金利通貨、商品相場などから資金が一斉に流出。10月に豪ドルは2003年4月以来の安値0.6009、対円では55.20円の史上安値と、7月の高値からまっ逆さまに“暴落”する。相対通貨として買われたのは米ドルと円。過去数年にわたり高金利通貨、新興国アセット投資のための低コストファンディング手法であった“円キャリートレード”の強烈な巻き戻しが入り米ドル円は100円を割って下落。一方金融不安の欧州への広がりを懸念したユーロなど欧州通貨売り、米国企業・米系ヘッジファンドなどの海外リスク資産売却/本国への資金還流の動きが激化し(これは1995年のドル円79.75円時に日本でも見られたリパトリ)ドル高、円高が現出した。その後米国における金融安定化法案の成立、度重なる国際会議、各国協調利下げ、各国中銀のドル資金の市場への供給、各国の景気浮揚策等の実施によりさすがにリスク回避の動きも若干収まって年末入りとなった。しかし金融危機は最悪期を脱したようにも見えるが影響は急激に各国の実体経済に波及してくる。特に米国では基幹産業である自動車産業が破綻の危機に瀕し、結局今月自動車メーカー救済内容(年末資金のつなぎ融資)は発表になったものの根本解決はオバマ次期政権に投げられた格好。むしろ12月はFRBが再度利下げして実質ゼロ金利政策となったことから米ドル売り戻しが強まり豪ドルも一時71セント台、63円台まで値を戻した後68セント台、61円台に小緩んでクリスマス休暇入りとなった。
2009年豪ドル相場見通し
☆キーワードは米ドル動向、世界経済(特に米国と中国)、リスク回避
1. メジャーシナリオ―年前半は軟調、年後半は堅調を取り戻す
予想レンジ: AUD/USD 0.6000-0.8000 AUD/YEN 55.00-80.00
年前半は各国景気後退局面が継続し、商品相場も軟調推移。RBAは金融緩和を継続し豪ドルは頭の思い展開が続く。しかし米国はオバマ新政権の下で政治・経済を刷新させ、年央以降は徐々に米国・世界経済に回復の兆しが現れる。RBAも金融政策をニュートラルに戻す。来年後半にはリスクアセット投資の動きが見え始める。
2. リスクシナリオ(サブシナリオ)―豪ドル一段安
予想レンジ: AUD/USD 0.4000-0.7000 AUD/YEN 30.00-65.00
米経済は破綻に。世界経済は更に悪化し商品相場は続落。リスク回避の動きが更に強まり豪ドル投資は消滅。
(サマリー)
一連のサブプライムローン問題に端を発した世界的な金融危機・経済危機により失われた資産価値は何十兆ドルに上るであろう。まさに銀行融資にレバレッジを効かせた投資スキームにより損失が拡大したものである。したがって銀行融資基準、リスク管理が厳しくなったサブプライム後の市場において、サブプライム前のようなレバレッジを効かせたハイリスク投資が行われる可能性は激減。失われた資産規模は二度と戻らないであろうし資産バックのリスク投資も従来のスケールとはならない。特に世界経済の更なる悪化が予想される来年前半はリスク投資どころではない。上記リスクシナリオのケースは米国の財政赤字が制御不能となり、双子の赤字という懐かしい言葉が復活。海外からの赤字ファイナンスができない事態となり米国自体がデフォルト宣言することになる。当然米国の購買力の恩恵に預かってきた中国はじめ諸外国の経済は疲弊する。
しかしながら世界中瞬時に情報を共有できる今日、国際協調のセフティーネットの発達もあり最悪シナリオに陥ることはないであろう。むしろ今年各国が行った金融緩和、財政出動の効果が年後半に徐々に現れ、市場の混乱も収束に向かうのではないか。リスク値の増減が豪ドル相場を支配する味気ない展開が来年も続きそうであるが、従来より存在意義が薄れた各項目別に見てみよう。
(米ドル相場)-長期下落傾向。しかし暴落はない。
上図米ドルインデックスに見られるごとく、米ドルは長期的に緩やかな下落基調にある。特に1999年のユーロ発足以来そのハードカレンシーとしての負担を軽減しつつある。今年3月のIMF外準報告によると外貨準備における米ドルの比率は63.9%と過去最低。この傾向は今後も続こう。市場が平時に戻れば通貨分散投資が活発化して米ドル安/豪ドル高。市場が異常時になれば、再度米ドルに資金還流で米ドル高/豪ドル安。またトップのチャートでも分かるように豪ドル/円の大きな動きは基本的に豪ドル/米ドルの動きより決まる。平時に戻れば再び円キャリートレードにより豪ドル高/円安となる。
(世界経済)
昨年は前半の稼ぎがあったため世界経済は5%の成長。しかし最新の国連の発表では2008年世界経済の成長予想は2.5%、2009年は1.0%の実質成長に鈍化する見込み。2009年国別GDP予想では、米国-1%、ユーロ圏-0.7%、日本-0.3%、中国7%、豪州1.5%とかなり厳しい。しかし今年の成長予想が何度も下方修正されたように、来年についても逆に上方修正の可能性もあろう。悪い数字を織り込んだ後には、むしろ少しでも強い数字は目立つものである。
(豪州経済)
|
2003 |
2004 |
2005 |
2006 |
2007 |
2008(予想値) |
2009(予想値) |
GDP(%) |
3.0 |
3.9 |
2.9 |
2.7 |
4.3 |
1.5 |
1.5 |
昨年は資源高による外需と、個人消費も底堅かったこと、更には鉱山中心に民間設備投資が旺盛であったことからGDPは4.3%を記録した。しかし今年は世界的な金融危機・経済危機の影響や資源価格の下落から輸出が減少していること、個人消費と住宅部門低迷、更には雇用不安などもあり、RBAは11月の四半期金融政策報告でGDPを2.0%から1.5%に引き下げた。来年についても、世界経済の回復の遅れや中国経済の低迷から商品相場軟調が継続する可能性が懸念される。豪ドルは世界経済のバロメーター。世界経済が順調のときは豪ドル堅調。後退のときは豪ドル軟調。
(RBAの金融政策、金利格差)
サブプライム震源の米国は昨年9月から利下げを実施していたが、ECBが今年7月まで、またRBAも3月まで”利上げ”を実施したのがうそのよう。当時は景気後退懸念よりもインフレ懸念が強かったのである。現在日本と米国が実質ゼロ金利政策。スイスが0.5%、欧州が2.5%、英国が2.0%と各国ともドラスティックな利下げを実施したが、今後更なる利下げ余地は減少し、来年景気が思惑通りにピックアップしない場合の金融政策面からの手詰まり感が指摘される。豪州は現在4.25%と史上最低水準にあるがまだ他国比割高で、RBA筋によると3.75%程度までの利下げはありそう。各国金融緩和前と現在の豪州との金利格差を見てみると:
|
日本 |
米国 |
欧州 |
英国 |
NZ |
金融緩和前 |
+6.75 |
+1.0 |
+3.0 |
+1.5 |
-1.0 |
金融緩和後 |
+4.15 |
+4.0 |
+1.75 |
+2.25 |
-0.75 |
豪ドルは金利差が拡大した通貨(ポンド、NZドル)に対しては強含みに、逆に縮小した通貨(円、ユーロ)に対しては弱含み推移しており、金利格差を反映した理論通りの動き。例外は豪ドル/米ドルである。金利差から見れば豪ドルは対米ドルでアンダーバリューになっていると言える。
RBAは9月から12月まで4回連続3%の利下げを行った。しかし2001年12月に景気後退から4.25%まで利下げしたときも5ヵ月後の2002年5月に利上げに転じており、臨機応変に対応している点は留意すべきである。
(商品相場)
今年7月に商品先物インデックス(CRB)は473.97の史上高値を付けたが、その後世界景気後退懸念の高まりから原油は147ドル台から一時33ドル台に暴落。その他非鉄金属類など主要品目の価格も値を下げCRBは215と2002年以来の安値に急落している。また投機の対象とはならない石炭・鉄鉱石価格については、原料炭に付いては今年は昨年の実に3倍、燃料炭も2倍に、また鉄鉱石も65%上昇したが、来年は大幅に価格ダウンが必至とのこと。来年の商品相場の鍵を握るのはやはり中国。中国の過去30年間のGDP平均は9.7%程度であるが、これが7%に落ちた場合のインパクトは大きい。
以上、各項目共に豪ドルサポート材料が今のところ乏しいが、むしろ今年の豪ドル下落の背景を物語っており、市場が悪材料を早めに織り込む場合にはむしろ、予想よりも早い時期に豪ドルのリバウンドを見る可能性もあろう。
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